300年の歴史ある老舗和菓子屋が提案する“革新的和菓子”

和菓子業界に新たな風を吹き込む『It Wokashi(イトヲカシ)』。プロジェクトの仕掛け人である和菓子職人 竹口久嗣氏と、マネージャー 川合将之氏は、ともに高校の同級生同士だ。

It Wokashiの代表菓子『It Daifuku』は「飲めるほど柔らかい大福」と表現される、とろんとこぼれ落ちるほど柔らかな食感。今までの大福の概念を大きく覆すものとなっている。可愛いパッケージも話題を呼び、流行に敏感な若い世代を中心に人気が高まってもいる。

今までにない『新しい』と出会えるIt Wokashi。とても魅力的で面白いと感じる反面『古き良き和菓子感』が失われているようにも見えるかもしれない。だが実はこのプロジェクト、「日本の文化である和菓子を、未来に残したい」という、竹口氏の強い和菓子愛のもと動き出したものでもあるのだ。失われつつある若い世代の和菓子への興味を再び目覚めさせるため、今もなお奮闘中だ。今回の記事では、It Wokashiブランドの誕生までのストーリーと商品やお店作りへのこだわりなどについて話を伺った。

和菓子の伝統を後世に残すために

It Wokashiが誕生することとなった経緯について、マネージャー 川合将之氏に話を伺う。

「竹口とは、地元である三重県の高校の同級生です。高校を卒業後、私は大学進学のために上京し、卒業後はバーテンダーをメインに約20年の間、飲食業界で働いていました。ある時、彼が出張で東京に来ていることをたまたま知り、『久しぶりに会おう』という流れに。この時すでに、彼は実家の和菓子屋、大徳屋長久を継いでいました。何でもない話を交わす中、話題はお互いの仕事の話に。そこで彼が『大徳屋の和菓子をもっと多くの人に知ってもらうために、今、東京進出を考えている」と話しました。すでにもうそのための構想はいくつか練っているのだと、今のIt Wokashiの原点ともなる話もそのとき聞かせてくれました」

大徳屋長久は、三重で300年以上も続く老舗和菓子店である。県内に6店舗を構え、定番の和菓子から、和と洋をミックスさせた『kodayu』というチョコチップやナッツを黄身餡に混ぜたミルク饅頭、生のバナナを使ったマドレーヌなど、和にとらわれない商品を展開している。竹口氏は現在、大徳屋長久の16代目として世襲『久兵衛』の名を受け継ぎ、運営や商品開発などに携わる。
その傍らで、三重県内にある製菓専門学校で講師も務めているそうだが、そこで目の当たりにしたのは、生徒のほとんどが洋菓子職人(パティシエ)に憧れを抱き、和菓子職人を志す学生がとても少ないという現実である。竹口氏は「このままでは、和菓子業界がなくなってしまうのでは」と危機感を覚え、自らが今後の和菓子業界のために動こうと決意する。

「大徳屋長久をもっと躍進させたいという想いが東京進出のきっかけではあったと思います。しかし『和菓子職人が途絶えることへの危機感』を強く抱いたことは、彼の心をより大きく動かす要因でもあったはず。職人が減ることは、和菓子の伝統と文化が未来へ受け継がれないことを意味します。現状を『どうにかしなればならない』と思う気持ちと『若い人たちが和菓子職人になりたいと思えるような道を示したい。自らがそのモデルとなり、のちの和菓子業界へとつなげよう』と考えたのだと言います。私もそんな彼の力になれたらと感じるようになりました」

和菓子の世界に新しい風穴を

何事も、言葉にするのは簡単ではあるが実行するのは不断の努力が必要。ましてや若い世代の間で『和菓子離れ』が進む中、注目してもらうのは非常に難しい。
そんなある日、とある飲み会の場で竹口氏は『TETOTETO Inc』代表、井上豪希氏と出会う。今抱く不安やこれからのビジョン、新しい風を入れたいのだという想いを彼に伝えながら話すうちに「この人となら、自分の想いを具現化できる」と感じプロジェクトのブランディングをお願いすることとなった。

「TETOTETOは、飲食企業のブランディングを多く手がける夫婦ユニットです。打ち合わせの時に持って行った、いくつかの大徳屋長久の和菓子のなかに『ふわふわ大福』という今の『It Daifuku』の原点とも呼べる商品がありました。粒あんと生クリームを使ったふわふわ食感の大福なのですが、2人は『こんな柔らかい大福、食べたことない!』とすごく驚き、感動してくれました。どんな商品を展開していこうか悩んでいたところだったので、この大福は大きな糸口となりました」

低コストでここまでできる!セルフリノベーションの店舗

「店舗を作ろうと提案してくれたのもTETOTETOさん。『ちょっと面白い物件を見つけたんだけど、店舗としてどうだろう?』と。少ない資金しかないなかで、今すぐ店舗を持つのはとても厳しくもありました。すると井上さんから『じゃあ、自分たちできることは全てしちゃおう!』と、電気工事以外の全て、壁紙を剥がして塗ることや、床を整えたりテーブルなども全てを手作りすることで、かなりのコストダウンに成功。わからないことは建材屋さんなどの専門的な方に手伝ってもらい、セルフリノベーションしました。TETOTETOはじめ、たくさんの方々のお力のもと完成したこの店舗には、強い愛情があります」

「紙袋も一つ一つロゴ印を手押しで。紙袋に付属させるショップカードも手作業で穴を開け付けています。少ない資金でもここまでできるんだという挑戦は、『東京に進出したいけれど資金が不安』そんな悩みを抱く地方の和菓子屋さんへ刺激になるのではとも。私たちがひとつのモデルケースとなって見せていくことは、今の和菓子屋業界を活性化するには良い方法だと考えます。やり方次第で、可能性は無限大です」

自分らしく楽しめる自由な和菓子

「ふわふわ大福の柔らかさをもっと究極まで突き詰めて味のバリエーションも増やせば、きっと面白くて新しい和菓子が生まれるはず」TETOTETOの2人からのそんな提案をもとに誕生するのが、飲めるほど柔らかい大福『It Daifuku』である。

It Daifukuの特徴は、こぼれ落ちるほどの柔らかさ。一般的な大福と比べても柔らかさの違いは歴然。持ち上げた時のふわふわとした感触はもちろん、外側のお餅のもっちり感、中身はクリーミーかつ斬新な味の掛け合わせ、それら全てが相乗効果をなして、どこか面白くそれでいて幸福感に満たされる。リピーターが多いのも納得だ。

It Daifukuは全て冷凍の状態にて販売されている。「和菓子を冷凍で?」と驚かれる方もいるだろう。和菓子は、使う材料などの理由から冷蔵には向いていない。さらには作ってから品質が落ちていくスピードも生モノゆえに早い。けれども、作りたてをすぐに冷凍保存することで美味しい瞬間を閉じ込めることができていつ食べても美味しく味わえる。『賞味期限を気にして早く食べなければならない』という点をも解消してくれるのだ。

冷凍だからこその楽しみ方としてもうひとつ、解凍具合により食感が変わるところもお伝えしたい。

とろとろ食感を味わうなら解凍目安は1時間。30分だと冷たさが残る程よいとろとろ感。冷凍のまま大福アイスとして楽しむ方法もおすすめだ。例えば暑い夏には解凍時間を短めに冷たいお菓子として楽しむなど、季節やシーンによって変えられる自由自在な和菓子である。

遠方からEC経由で購入する際も、冷凍は大変ありがたい。手数料などの関係から一度になるべく多い数を購入したいと思う反面、生モノは賞味期限があるゆえに個数を躊躇してしまう。この場合であっても冷凍ならば好きな数を購入できて食べるタイミングも急かされない。これはECに限らず実店舗で購入する際にも同じこと。長期保存できるから手土産にもおすすめだ。

“和菓子らしさ”を覆すパッケージデザイン

It Daifukuが生まれるまでの経緯もなんともユニーク。普通ならば味のバリエーションを決めてからそれに見合うパッケージをデザインしていくのが一般的な流れ。しかしIt Daifukuは、先にパッケージデザインを決めてから、そこへ味をはめ込んでいったそう。

逆転の発想とも言えるこのユニークな考え方は『見つけてもらいやすさ』を意識したからこそ生まれたものである。It Wokashiは東京都世田谷に店を構えているが、もとは店舗を持たず、ECをベースとしてデパートの催事やマルシェなどでの展開をと考えていた。店がいくつも同時に並ぶ場では、いかに商品を見つけてもらうかがポイントとなる。そこで拘ったのが、パッケージのデザインだ。和菓子とは思えないスタイリッシュなパッケージは、プレゼントやお持たせに選ばれることも多いそう。若い世代を中心に、SNSでも話題となっている。

ブランドネーム“イトヲカシ”に込める想い

「『It Wokashi(イトヲカシ)』というブランドネームはTETOTETOの提案でした。このネームには、いくつかのコンセプトが込められています。まず一つめに、言葉の響きそのものでもある『いとをかし』を古典的な面から解釈した『とても趣が深い』『味わい深い』。現代語に訳すと『ものすごく興味深い』という意味です。二つめに『いとをかし』をローマ字表記すると『It”o”wokashi』となるところを『今時の女性』を表す『It girl』からヒントを得て、敢えて”o”を抜き、今っぽく。三つめに『ヲカシ』と『お菓子』この2つの響きをリンクさせて商品のイメージが湧きやすいよう意識しています」

店舗正面やショッパーに印字される『久』のマークも印象に残る。どのような意味が込められているのだろう。

「ロゴを作ってくれたのは、TETOTETO井上さんが繋げてくれたデザイナーさんです。『大徳屋長“久”』、竹口の世襲『“久”兵衛』、イトヲカシを始めるにあたり新たに竹口が新設した『株式会社 兆“久”』。全てに共通する『久』をベースに、山に日が昇る様子をイメージしています」

100年先も愛される和菓子を作りたい

最後に、これからのIt Wokashiが思い描く展望、そしてお客様へ伝えたいメッセージを伺った。

「It Wokashiは『若い世代からこの先100年愛される和菓子』をコンセプトにしています。今後もその想いは変わらず、今だけでなくこれから先もちゃんと残るような、ずっと愛され親しまれる和菓子をお客様へ届けたい。今後についてはすでに色んな案がたくさん出ています。今はIt Daifukuをメインに展開していますが、第二弾としてお饅頭を出そうとか、日持ちするものを作りたいねなど、まだ明確ではないにせよたくさんの“わくわく”を控えているので、お客様には楽しみにして頂きたいですね」

老舗和菓子屋の新たな幕開けでもあるIt Wokashiから、今後も目を離せない。

[box title=”お店情報” box_color=”#c30d23″]店名:It Wokashi いとをかし

住所:東京都世田谷区奥沢7ー19ー17

定休日:水曜日

営業時間:10:00~17:00
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[gmap address=”東京都世田谷区奥沢7ー19ー17 It Wokashi”]

究極の柔らかさ!老舗和菓子店が作る新食感大福『It Daifuku』

It Wokashiが自信を持って提案する柔らかさを究極まで追求した新食感の大福『It Daifuku』。ふわふわのとろんとした感触は手に持つと思わず手からこぼれてしまいそうになるほど。味のバリエーションは全部で6種類。凛と個性が際立つそれぞれの味たちは、今までの和菓子の枠を大きくこえる。今回はその中から4つをご紹介。おすすめの食べ方についてもIt Wokashiの川合氏から教えて頂いた。

究極を追求し誕生した和菓子

ユニークという言葉がしっくりおさまる『It Daifuku』。こだわりを聞いてみた。

「一番こだわったのは、やはり柔らかさですね。こんなに柔らかい大福は他にはないというところで、食べた人に感動や驚きを与えたいと思います。持った瞬間の「なにこれ、やわらかい!」という感動にはじまり「この味は初めて食べた」という驚き、口に含んだ時の「とろける〜」食感。見た目は丸い普通の大福に見せかけて、実は全然違う。五感の全てで楽しんで頂けるような”わくわく感”のつまった大福です。」

味は『粒餡&クリーム』『葡萄&ラム』『烏龍&杏仁』『抹茶&レモン』『胡麻&マンゴー』『苺&ピンクペッパー』の6種類。特に気になるのはピンクペッパー。「一体どんな味がするんだろう?」と食べる前から既にわくわくドキドキさせてくれる。

「味に関しては、ブランディングをお願いしているTETOTETO井上さんから案を頂きました。『こんな組み合わせはどうだろう?新しいしきっと面白いしほかにない!』そうして彼の中で生まれたアイディアを竹口が試作し、ブラッシュアップしながらバランスを整え完成させました。井上さんの発想は”当たり前”や”普通”である必要はないということを教えてくれますし、今まで見たことのない景色も私たちに見せてくれるとても貴重な存在。信頼も寄せています」

『粒餡&クリーム』

6つの中でも一番ベーシックな『粒餡&クリーム』。「It Daifukuの入り口に」との想いから、材料もシンプルに。北海道産の小豆とクリームを合わせてこっくりクリーミーかつ餡の甘さが安心感を与える。持った時のふわふわ感を表現するため水分量には特にこだわった。
伝統的な和菓子というジャンルでは”邪道”かもしれないが、新しい和菓子のスタイルを感じられる。とろけるような大福の餅にクリームたっぷりの餡は、まさに絶品。口の中で互いの良さを邪魔することなく、引き立て合う食感と風味は、和菓子界のショートケーキと言っても過言ではない。

『抹茶&レモン』

抹茶の渋みにレモンの酸味が寄り添う味わい。甘いお菓子が苦手な方にファンが多いのも納得できる、とてもさっぱりとした口当たりが魅力。食後のデザートにもおすすめできる。

「井上さんから『抹茶とレモンの組み合わせ、絶対に美味しいよ!』と案をもらって6つ味の中でも一番最初に完成しました。レモンと抹茶をどのバランスで融合させたら美味しいのはと何度も試作を繰り返すうちに、レモンは酸味の強すぎない『マイヤーレモン』という品種にしようと。少しの甘みも感じられるのです。抹茶とレモンの相乗効果は本当に素晴らしいし感動します」

『胡麻&マンゴー』

『胡麻&マンゴー』は、胡麻の香ばしい風味がマンゴーの甘酸っぱさをより引き立て面白い化学反応を起こす。
夏場、大福を好んで食べる人は少ないであろう。その中でも「夏を感じられる大福を」ということで考案されたのが胡麻&マンゴー。マンゴーのみずみずしさをしっかり表現し、胡麻の香ばしさがさらに食欲を掻き立てる不思議な組み合わせである。フワッとした大福の中から溢れるマンゴーの爽快感は、夏に食べたい和菓子としても最高の一品である。

「春夏向けのデザートとしてすごくおすすめです。冷凍のままマンゴーアイスのようにして食べても美味しいですよ。お子様にもおすすめです」

『苺&ピンクペッパー』

6つの中でも一番印象的な『苺&ピンクペッパー』。そもそもピンクペッパーの存在自体、知らない方も多いのでは。ピンクペッパーはその名の通りピンク色をした香辛料で、酸味に加え程よい渋みも感じることができる。主に肉料理に使われるものだが、それを苺と組み合わせるとどのような味になるのだろう…?

「和菓子職人は良くも悪くも保守的に傾きがちになるのです。それは伝統を守がゆえに新しいことへチャレンジしにくくなるという、仕方のないことでもあります。けれど私たちはそこをこえて、新しい和菓子作りをおこなうパイオニア精神を忘れたくないと日々思い活動しています。普通ではなかなか思いつかない『和菓子×香辛料』の組み合わせは、発想の時点でとても斬新で面白い。お店を印象付ける意味でも良い効果が得られるとも。とはいえ、奇を衒うだけの商品ではすぐに飽きられてしまうし、It Wokashiのコンセプトともずれてしまいます。『苺&ピンクペッパー』はひとつの挑戦でもありました。ピンクペッパーの粒の大きさや配合の割合はこの商品の一番のポイントです。そこにすごく拘り何度も試作を重ねて生まれた自信作。苦労した分、思い入れはひとしおです」

ピンクペッパーは、こしょうであるが普通のこしょうよりも香りが強くなく大福の甘さを引き立てる面白い組み合わせ。いちごはIt Wokashiの大福のフワフワとした生地と調和しいちごミルクのように仕上がっており非常に面白い体験ができる大福である。

多彩な食べ方で自分好みをみつけて

おすすめの食べ方についても川合氏に伺ってみた。

「それぞれの味の組み合わせを楽しんで頂きたいのはもちろんですが、冷凍で販売するからこその食べ方を提案したい。しっかり解凍して、とろとろの柔らか食感を楽しんで頂くことのほかに、半解凍してまだ少し冷たいスイーツとして味わうも良し。冷凍したまま召し上がるとアイスクリームのようです。正解はありません。作り手側が自由に楽しんで作っているように、食べる人にも自分好みの食べ方で味わって欲しいですね」

It Wokashiの大福の中でも『烏龍&杏仁』は個人的なイチ押し。中華料理では定番の組み合わせを、和菓子で表現した一品である。
市販の大福は生地が堅いうえに烏龍の味がそこまで感じられず、中の杏仁もボロボロしてなめらかではない。しかし、It Wokashiの烏龍&杏仁は、レストランで出されるデザートのように、フワッとした生地から、とろけるほど滑らかな杏仁が中から飛び出してくるのだ。香り、食感、味、全てにおいて高い満足度を感じる。和菓子が苦手な人にも一度は食べて欲しい、価値のある一品である。

It Wokashiでは、大福のほかに季節限定の上菓子もラインナップ。
和菓子の世界だけでなく、お菓子業界の常識をくつがえすユニークなIt Wokashiの提案。東京の実店舗ほか、通販ならば全国各地どこへでも配送が可能。和菓子にあまり関心のない若い世代、新しいスイーツと出会いたい人もぜひチェックして頂きたい。

[box title=”お店情報” box_color=”#c30d23″]店名:It Wokashi いとをかし

住所:東京都世田谷区奥沢7ー19ー17

定休日:水曜日

営業時間:10:00~17:00
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