子どもから大人まで、安心して食べられる餡子を届けたい

こだわりの素材と独自の製法により、安全で美味しい餡子を作り続けるキノアン。業務用餡子のみならず、一般の人も気軽に購入できる小分け商品の展開、テディベア作家とコラボレーションした「テディベアもなか」など自社のオリジナルブランドにも力を注ぐ。

今回は、キノアンの創業ストーリーをお伝えするとともに、餡子へのこだわりをお伝えする。

オリジナルブランドが一つの転機に

キノアンは1959年に東京都板橋区で木下製餡所を始めた。最初は卸業のみだったが今では自社オリジナルブランドを立ち上げ、和菓子の製造販売も行っている。創業から今に至るまでをキノアン代表の木下 公章氏に伺った。

「製餡業界が日本で広まったのは戦前から戦後にかけて。特に戦後の昭和30年代は高度成長期で景気が良くなり各地にスーパーができ、そこで和菓子を売るながれから餡子の需要が増えて行きました。しかし、当時は資源が今ほど充実していなかったこともあり、どこもあまり良い餡子を作っているとは言えませんでしたね。それもあって、私自身、父の立ち上げた工場を継ぎたいとは思いませんでした」

「大学を卒業して会社勤めをしていたとき、父が、工場も古くなったし閉めようかなと口にしたのです。そこで初めて、もったいないから継ぎたい想いが初めて芽生えました。それで父に手伝わせてくれとお願いしたのが始まりまです。26歳のときでした」

それから木下さんは、餡子の作り方を先代である父から学び、独学で練り餡も作り始めた。

「練り餡を始めたのは、良い餡子を作りたい気持ちがあったからです。今から20年くらい前でしょうか。真空パックの機械を入れたのですが、それまでは卸専門として商売していたなか自社ブランドを立ち上げて、素材から価格設定まで全て自分たちでやれば、美味しさにとことんこだわった餡子作りができるのではと。その時期くらいからだったでしょうか、私自身、本気で餡子と向き合うようになったのは」

「一方で、具体的にどうしたら美味しい餡子が出来るのかがそもそも解らず苦戦しました。私自身が製餡経験がないのでとにかく見よう見まねで、同業者の方や和菓子屋さんへ話を聞きに行ったこともあります。そんなとき、長年製餡に精通していらっしゃる藤原先生と出会いました」

藤原氏はこの道55年、製餡に関しては超がつくほどのベテランである。過去には大手の和菓子屋に勤めており、自身で製餡所を立ち上げた経歴もお持ちだ。現在は、フリーランス餡子職人とちょっと珍しい肩書きをお持ちでもあり、今から約8年ほど前からキノアンにて餡子作りの指導を定期的にしていらっしゃるのだそう。

「藤原先生に初めてお会いしたときに私が作った餡子を食べていただき、言われたのは『小豆がかわいそうだね』と。要するに、良い小豆を使っているのに良さが生かされていない、と。そこで、先生にお願いをして、本当に美味しい餡子を作るためのノウハウを基礎から学ばせていただくようになりました」

それが今から8年前のこと。使う素材は何も変えず窯や機械を改良し、小豆の煮方も改めた。窯は豆が煮崩れしないような構造に作り変えたことにより、小豆の風味がぐっと引き立ち、こし餡のキメの細かさの違いも歴然だったという。

「藤原先生と出会うまでは、『小豆は煮れば良い』と、どこか思っていたと気付かされました。そして、我が社のような小さな餡子屋は大手と違って規制も少なく、自分たちの作りたい餡子を作れるところが最大の強みなんじゃないかとも気付かされたのです。こだわればこだわるほど生産性は低くなってはしまいますが、それでも徹底的に時間と手間をかけて作りたい。量産ではなく、大切に、丁寧に作ることに重きを置きたいと。その方が、自分たちの本当にやりたかったことにも近いと感じました」

キノアン製餡のカナメ、藤原氏の存在

木下氏が「これまでの製餡の概念を覆された」と話す藤原氏は、はたしてどのような人なのだろうか。同氏に直接話を伺うことが出来た。これまでの歩みと餡子へのこだわりを聞いてみた。

「学校を卒業後、和菓子屋に入りました。当時から、いつかは自分のお店を持ちたいと思っていたこともあり、過去には和菓子屋や工場を持っていたこともあったのですが、リーマンショックや大震災の影響もあって非常に厳しい状況となり、いったん全て閉めて、今はフリーで活動しています。木下さんとの出会いは今から8年ほど前になるでしょうか。いろんなご縁から餡子作りに携わらせていただくようになったのですが、これまで自分が築き上げてきた経験やお菓子作りのイロハ、そういったものをお伝えできれば何か少しでもお力添えできるではと思ったのが始まりでした」

藤原氏が初めて勤めた和菓子屋では尊敬すべき師匠との出会いがあったという。日本で3本の指に入ると言われるほどの優れた技術を持った和菓子職人であるその人との出会い。日々、指導を受けながら、生菓子を始め大福や団子、上生、焼き菓子など全てを一から学んだという。

20歳の頃には、毎月行われているお菓子の品評会「日本菓子協会 東和会」に和菓子を出品し、上生の良さや難しさ、その素晴らしさを肌で実感。何度も何度も実証を繰り返しながら、自分の腕を磨いていった。

また現在では、糖尿病を抱える現代の人たちが安心して美味しく食べられる和菓子を作ろうと、三井製糖と共に、砂糖の研究開発にも携わってもいる。
世の中の餡子屋さんはどうしても量産になりがちで、大事なところが抜けてしまっていると藤原氏。たまたま木下製餡工場を訪れたときににも同じような感想を抱き、もっと工夫すれば美味しい餡子が作れると木下氏に話したという。

「工場の規模の大小に関わらず、やはり美味しい餡子を作っていくこと。それは、餡子屋が長く生き残るための一つの方法だとも思っています。木下社長もその想いを理解して下さって、『職人の餡子を作りたい』と、私と同じような希望や熱意を抱いていらっしゃるとわかったので、ぜひ一緒にやりましょうと今に至ります」

関西と関東での餡子の違い

ひとくちに餡子といえど、関西と関東とでは味に違があらわれると藤原氏。

「関西は、お茶の文化が関東よりも発達しているため、敢えてさっぱりと薄味な餡子に仕上げてお抹茶と合うよう考えて作っていらっしゃるところが多いですね。餡子も白い色のものが多く、それは、豆の周りにある皮を取ってから煮るためです。関東は皮も一緒に煮るのところがほとんどなので、そのぶん、豆の風味がしっかり引き立つわけですね」

美味しい餡子を作るための第一歩は小豆選びから

美味しい餡子はまず、良質な小豆を選ぶところから始まる。
小豆にもさまざまな種類があり、一般的に一番風味が良いとされるのはエリモショウズ。また、大きさや色、比重などによりランク分けされ、粒が大きく色の揃ったものほど評価が高い。

キノアンでは、小豆で有名な北海道産の上級ランクの小豆を使用。
粒が揃っていないと煮崩れが起こりやすく旨味が逃げ、煮えムラも起こってしまうので小豆選びは美味しい餡子を作るための重要な第一歩となる。

良い小豆かどうかは素人の目にはわからないほどごくわずかな差で決まる。藤原氏曰く、「その違いは、毎日見ているとわかってくるのです」とのこと。

また、餡子を美味しく作るためには煮方もポイントとなってくる。煮えあがるまでなるべく皮が割れないようじっくり丁寧に煮る。これにより、小豆そのものの旨味をぎゅっと閉じ込めた、風味高い餡子に仕上がるという。

キノアンの自信作「吟醸匠のこしあん」は、これまで築き上げてきた製餡技術が惜しみなく注がれ、有名人も御用達、テレビで紹介されるほどの人気商品である。上品な甘さ、添加物不使用なのも嬉しい。「餡子屋として、こし餡を褒められるのは嬉しい」と、藤原氏も世間の高い評価に嬉しさをにじませる。

上品な甘さは砂糖が決め手

キノアンの餡子には、鬼ザラと呼ばれる粒の大きい砂糖が使用されている。一般で使われることの多い上白糖との違いはどのようなところなのだろう。

「上白と鬼ザラの大きな違いは、上白はミネラルが多いものの精製度合いが低く、甘ったるさが残りやすいのです。それに比べて鬼ザラは、純度が高くてえぐみが少なく、甘さにキレがあります。そのため、小豆の味を引き立てるのにぴったりなのです。一方で、上白を小さな頃から食べて育った人には、その味に親しみがあるわけで、誰もが鬼ザラを美味しいかというとそういうわけではないと思うのですね」

「これは小豆の煮方にも繋がることなのですが。キノアンの餡子は、小豆をじっくり煮てアクもしっかり抜いています。この工程を『渋きり』と言いますが、小豆に水を入れて沸騰させてアク抜きをして、そのお湯を捨てる。この工程を2、3回繰り返すのです。それからやっと、本煮えに入ります。この一手間によって、さっぱりとした上品な味が生まれます。逆に、アクをそれほど抜かない小豆に慣れている人からすると、少し物足りなさを感じるかもしれません」

お菓子屋さんのなかには、わざとアク抜きをしないところもあるそう。そうすることで、小豆の味が濃く出るためだ。そのような場合、普通の砂糖の量を加えるとえぐみが引き立ってしまうため、砂糖を少なくして甘味度を下げてバランスを取る。しかし、砂糖を少なくすると日持ちしなくなるなどと言った新たな問題が浮上するから難しいのだそう。

キノアンの餡子は、甘さ控えめでとても食べやすいと感じるが、実際に使っている砂糖の量は一般的で、余計な甘ったるさがないのは鬼ザラだからである。

「砂糖や小豆に限らず、餡子にも、美味しさの定義などはないと私は思っています。以前とある酒造の当主が『10人中3人に好まれれば良い』と言っていらっしゃったのですが、私もその言葉の意味はよくわかります。なぜなら、万人に好まれるものは、無難な味でもあるからです」

「キノアンの餡子はさっぱりしているので、なかにはちょっと物足りないと感じる人もいるかと思うのですね。先ほど申し上げたように、食の好みは育ってきた環境で大きく左右されるものなので、一概に何が美味しいというのはわからないのです。私自身、全く違う煮方の餡子を食べて美味しいなと感じることもありますし。美味しいかどうかは食べる人が決めることで、ある意味、自己満足の世界でもあると。嗜好品ですから、何が正しいという決まりはないのです」

子どもから大人まで安心して食べられる餡子を

キノアンは、『子どもから大人まで、安心して食べられる餡子を作る』ことを大切に、日々、餡子と向き合う。そのため添加物や色素、香料は一切使用せず、厳選されたごくシンプルな素材のみで作っている。

素材にこだわる分、販売価格は他と比べて高いものの、「餡子が苦手だったけど、キノアンの餡子は美味しく食べられる」そんな声を聞くほどに、着実にファンを得てもいる。「小さい餡子屋なので、手間をかけてやるしかないので」と、キノアン代表の木下氏。その想いは確かに、多くの人たちへと届いている。

キノアンの商品はオンラインでも購入可能。また、週に1度、工場直売もされており、ときに100人近くが並ぶほど大盛況だ。「たくさんの人が買いに来てくださり、それが私たちの自信につながっています。同時に、お客さまの声を直接聞けるのもすごく嬉しいのです」と木下氏は話す。
また、消毒液が不足しがちな昨今の状況をふまえ、「キノアンとして、お客さまのためにできることをしよう」との想いから、消毒液の格安提供も始めた。

餡子職人が手間暇かけて作る、キノアンの絶品餡子。ぜひ一度、ご賞味あれ。

店舗情報
店名:有限会社木下製餡(キノアン)

住所:東京都板橋区幸町41-11

本山智男
株式会社SweetsVillage 創業者。 3度の飯よりスイーツが好き。お菓子屋さんの取材を50件以上実施。様々なスイーツの企画にも携わり、スイーツの商品開発などにも携わる。