クラシックとモダンが合わさる宝石のようなチョコレート

中目黒駅から歩いて徒歩5分。目黒川道路沿いの少し中へ入ったところにあるパティスリー「ショコラティエ タカ」。

店内に入ると宝石箱をひっくり返したかのような輝かしく美しいスイーツがずらりと並ぶ光景には思わず胸がときめいてしまう。シックで高級感の漂う雰囲気のなかにどこか温かさを感じるのは、お菓子の甘い香りと、オーナー・パティシエ矢島 清高(やじま・きよたか)氏の気さくな人柄がにじみ出ているからだろう。「もっとショコラティエ タカのことを知りたい」そんな思いがきっかけとなった今回のインタビューに至った。矢島氏に、お店のことやお菓子作りへのこだわりなどさまざまなお話しをお聞きする。

友達の一言がきっかけで料理人の道へ

矢島氏がパティシエを目指すようになったのは、中学の頃の何気ない友人の一言がきっかけだった。

「両親が共働きだったので、中学生の時は自分でお弁当を作って持って行っては友人と交換することもありました。ある時、明太子スパゲティーをお弁当箱に詰めて持って行ったら、食べた友人「美味しい!」と喜んでくれて、それがとても嬉しく。ありきたりかもしれませんが、その時に感じた想いが私を料理人の道へと導きました」

矢島氏はもともとスイーツに強い関心があったわけではなく、食べることそのものが好きだった。高校ではラグビー部に所属し、スポーツ一色の学生生活を送った。そして高校を卒業すると、周りの部員たちが大学へと進学してラグビーを続けるなか、矢島氏は一人、料理の道を志すために武蔵野調理師専門学校へと進学する。専門学校での2年間は老舗日本料理店でアルバイトをし、卒業後はイタリアンやフレンチ料理店でさらにキャリアを積んだ。

料理人から一転、夢はパティシエの世界

24歳の時、「料理をもっと学びたい、海外で自分の力を試してみたい」との思いが芽生え始め、行った先はオーストラリア。なぜオーストラリアを選んだのか、その理由を尋ねてみた。

「スイーツの修行となると確かにフランスやイタリアへ行く人が多いと思います。なぜ私がオーストラリアを選んだのか。まず一つ目に英語圏であったこと。そしてもう一つ、当時シドニーには『Tetsuya’s(テツヤズ)』というレストランがあって、ぜひ一度そこへ行ってみたかったこと。そして、スイーツとは直接関係はないのですが、オーストラリアはラグビーが盛だったことも決め手となりました」

「Tetsuya’s(テツヤズ)」は、静岡県出身の出身の料理人、和久田 哲也 (わくだ てつや)氏がオーナーを務めるレストランだ。現在、和久田氏は経営から退いてはいるものの、当時のニュースタイムズのベストレストランの上位にランクインしていたほど、オーストラリアでは最も名の知れた高級レストランである。

「オーストラリアには4年半ほどいました。ワーキングホリデーで行ったので、同じところで3ヶ月しか働けないこともあり、途中で学生ビザに切り替えたりもして。TAFE (ティフ)という、日本でいう専門学校や短大のようなところがオーストラリアにはあって、そこで資格を取るとさらに一年半、自分の好きなところで働けるビザが取得できるのです。そこからまたしばらくの間、日本人のあまりいないアデレードという土地で、学校へ通いながら仕事をしました」

「シドニーにいたころは『ZUMBO PATISSERIE(ズンボ・パティスリー)』というパティスリーで働いていました。今でこそオーストラリアに数店舗展開しているようですが、当時は1店舗しかないまだ小さなパティスリー。それでも1日にマカロンが8000個売れたり、大きなサイズのツリーの形をしたクロカンブッシュは1個4万円もするのに10台とか売れるほどの人気店でした」

「ズンボ・パティスリーのオーナー(アドリアーノ・ズンボ)は、もともとピエールエルメで働いた経験もある確かな実績をお持ちの方でもありました。マカロンだけで100種類も味のバリエーションがあって、一つひとつどれも斬新なものばかり。オーソドックスなパッションやフランボワーズはもちろん、日本では珍しいサーモンやキュウリのマカロンなどもありましたね。どれもただ斬新なだけでなく味もすごく美味しくて。ズンボ・パティスリー働いたことが私にとって本格的にスイーツの道へ進もうと思う大きなきっかけになったように感じます」

美味しさの基本は“クラシック“

ズンボ氏のもとでマカロンやケーキ、チョコレート細工などさまざまなスイーツの技術を身に付けた矢島氏。オーストラリアでの刺激的な日々は、「オーストラリアで永住し、自身のパティスリーを持ちたい」と思わせるほど魅力的な毎日だったが、ビザの関係で帰国することとなってしまう。

帰国後はホテルのレストランや専門店などで6年ほど修行を積んだ矢島氏。最初に勤めた第一ホテル東京では、昔からあるクラシックなスイーツを基礎から徹底して学んだ。オーストラリアで出会った斬新なスイーツとは打って変わって、シンプルな造形美の奥にある確かな職人技に触れた。この時期、「昔から残るクラシックなものの大切さ」に気づかさたのだとか。

「第一ホテル東京に入社したとき、私はまだパティシエの経験がそれほどありませんでした。第一ホテル東京は歴史も長く、昔からある伝統的なクラシックなケーキを提供していました。自家製にこだわっているところも第一ホテルの魅力。味も確かでした」

たくさんの人に長く愛され続けているスイーツは、クラシックであることが一つの条件としてあるように思う。時代とともに変化していくことにも価値はあるけれど、昔から残るクラシカルなレシピを知っていてこそ新しいものは生まれるとも。矢島氏も「例えばタルト生地やジェノワーズ、カスタードクリームなどの昔から今も残っているレシピは、レシピに素直に作るほうが美味しい。クラシカルなレシピというのは和食でいう“出汁”のようなもの。材料は極力シンプルに、時間と向き合いながら大切に作ることが大切なのです」と。

一つとして手を抜かずに丹精込めて作る「嘘のなさ」。これこそクラシックが長く愛されている理由なのだろう。

矢島氏とチョコレートの出会い

ホテルに入った当初は、華やかで美しいケーキの魅力に惹かれた矢島氏だったが、次第にチョコレートの奥深さに気づき強い関心を抱くようにもなる。

「チョコレートに関しては、ホテルで学んだクラシックレシピ以外に、ベルギーチョコレートやモールドタイプにも興味が湧き始めて、仕事の傍ら自分で勉強をしてコンテストにトライしていました」

ベルギーチョコレートとは、カカオの風味やコクを香り高く仕上げるために高温で練り上げる独特の製法で作るチョコレートのこと。モールドタイプとは、ゴディバでよく目にするような型取りされたチョコレートのことだ。目で見て楽しいモールドタイプのチョコレート。一方、作る工程の99%は地味な作業ばかり。型に色を吹き付けて、チョコレートを流し込み、美しい見栄えへと完成さる。それぞれの工程をただ言葉にするだけでは一見簡単そうに感じられてしまうかもしれないが、実際はかなりの技術が必要となるそう。

「モールドタイプは、型から抜いた時にチョコレートの表面が剥がれてしまうことがあるのです。その失敗の要因はさまざまありますが、まず一つに湿度。日本は湿度が高く、調整がとても難しいのです。私自身、様々な方に聞いてみましたが、湿度が40%を超えると剥がれる確率が高くなることがわかりました。あと、温度も重要です。手の温度は30度近くあるので、型に触れるだけでも溶けてしまう。そういったことを一つひとつ理解していないと必ずと言ってよいほど失敗してしまいます。艶が出ないといった問題もこういう要因が関係しているのだと思います」

難しいからこそ完成したときの達成感はこの上ないとも矢島氏は話す。「ショーケースに並ぶチョコレートを見たときのお客さまたちの喜ぶ顔に出会えると、嬉しくなります」思わず笑みをこぼしながら話すその表情を見て、中学生の頃、料理人になりたいと思ったあの瞬間にも、今日のような顔をしていたのではないかとふと想像した。

人に寄り添うお菓子づくりを

さまざまな経験を積んだのち、矢島氏はショコラティエ タカを2019年8月24日にオープンさせた。

お店のベースカラーはチョコレートのお店らしく茶と黒で統一されている。シックで高級感のある佇まいながら、ガラス張りの入り口からは美味しそうなスイーツがちらりとのぞき気づけば大きな扉を開けてしまう。

きらりと光輝く魅力的なショコラをはじめ、ケーキや焼き菓子など豊富なラインナップが並ぶ空間は、決して広くはないものの、矢島氏そのものをあらわすギャラリーのよう。大人から子どもまで楽しめる商品展開も魅力的だ。

「商品のラインナップに、ボンボンショコラは必ず入れたいとずっと考えていました。最初に作ったのは『カクテルコレクション』。横浜にあるノーブルというバーのオーナーと一緒に作りました。オーナーは2011年に世界チャンピオンにもなっていて、優勝したときのカクテルをチョコレートで表現したいとずっと思っていらっしゃって。そこで『ぜひ一緒にやらせてもらえないか』と私からお話ししたのがきっかけでした。
カクテルのショコラ自体あまり見かけませんし、何より、オーナーとお話ししながら一緒に作っていく中で、自分自身の引き出しが増えていったことは、とても貴重な経験にもなりました」

ショコラティエ タカのボンボンショコラを口にして一番に感動したのは、舌の上でするりと溶ける滑らかな口当たり。この食感、そして鼻を通り抜ける清らかな風味の秘密を聞いてみた。

「滑らかな食感は水分のバランスが重要なポイントです。チョコレートは状態が変化しやすい分とても作るのが難しい。作った直後より時間が経ったあとにさらに美味しくなるくらいが一番良いと私は考えていて、そのためにはチョコレートの油脂と水分とが混ざり合って完全に一体化するそのタイミングを計算して作らなくてはいけません。素材の割合を1%、2%とごく少量ずつ増減させて調整する。それだけでも食感はもちろん香りや味わいがぐっと変化します」

一つの商品が完成するまでには成功よりも失敗の方が圧倒的に多く、納得のいくものを作るには何度も試作を繰り返すという。また、周りの意見も積極的に取り入れることも重要だと矢島氏は話す。

「自分が美味しいと思うものを作ることはもちろん大切です。しかしそれだけでは世間からかけ離れてしまう可能性があるとも思うのです。斬新なスイーツももちろん魅力的ではありますが、私は、100人いたら90人くらいの方に美味しいと感じてもらえるようなお菓子を作りたいと想っています。なのでスタッフや私がよく通うお店のお客さんなどにも食べてもらって意見を頂戴したりもしています」

たくさんの人から愛されるスイーツを作るためには、レシピを固定しすぎないことも重要なのだとか。時に甘さだけでも細やかに微調整させているそう。

「ケーキのクリームもそうですが、他のお店より1%か2%程、砂糖の量が少ないかと思います。チョコレートに関していえば甘味を抑えられるよう砂糖を変える等工夫しています。他にも、いちごを使ったケーキであれば、いちごの酸味は毎日変わるので、それに合わせてクリームの量を調整したりもしていますね。お子さまが食べるのであれば甘めにしたり。レシピを固定するのではなく食べる人を想像しながら作るのは、レストランで働いていたときに年配のお客さまから塩を薄めにしてほしいなどオーダーを受けていた頃の経験が今に生きているからだと思います」

お菓子をつくる時間が私の幸せ

最後に、お客さまへ伝えたいメッセージとこれからのショコラティエ タカについて矢島氏にお伺いした。

「私自身、お菓子を作ることがとても楽しいのです。お客さまがお店に並ぶお菓子を見て、きれいだなとか、美味しそうだなと思ってもらえるようなものを、これからも作っていきたいです。お菓子は人生に必ず必要なものではないかもしれませんが、人を笑顔にしたり幸せにする力のあるものです。私の作ったお菓子で幸せを届けられたら、それが何よりも私自身の喜びに繋がります。『また来たい』と思ってもらえる愛されるお店へと育てていきたいですね」

日々のなかのほっとひと息つける時間、それは気分転換になったり、また頑張ろうと思えたりする、大切な時間。そのことを呼び覚まされた今回のインタビュー。そしてそんな時間にショコラティエ タカのお菓子があれば、より心は満たされるはずだ。

[box title=”店舗情報” box_color=”#c30d23″]店名:ショコラティエ タカ

住所:東京都目黒区青葉台1-16-6 クリスタルメゾン 1F

営業時間:12:00~19:00

定休日:水曜

公式サイト:https://chocolatier-taka.com/
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kanmi
3時のおやつはかかせない、甘党フリーライター。好物はクラブハリエのバームクーヘン。毎日がほんのりとあたたかくなるような文書をお届けします。