贈る人の顔を想い浮かべながら選ぶお菓子

個人的には、ポップコーンに思い入れがある。小学生のころだったか、学校から帰ると必ずおやつを食べる習慣があった。おおよそ決まったおやつのレパートリーが我が家にはあり、その中にポップコーンも入っていた。取手のついた丸い形をしたアルミ製の容器をコンロの火にかざす。すると、ポンッ!ポポンッ!とリズミカルな音を立てる様子がなんとも楽しい。

ほんのり塩気の効いたシンプルな味や口に入れるとふんわり鼻を抜ける香ばしさ。花を咲かせたかのようなルックスのどれもこれもが好きだった。しかし思い返してみると、ポップコーンを好きだった理由はそれだけはなく、ポンポンと音を鳴らしながら作るその工程やその思い出も好きな理由であった事を今更ながら気づいたのだ。

〈ギャレット ポップコーン ショップス〉は、そんなポップコーンを専門に扱うお店だ。今回のインタビュイーはギャレットジャパンの代表 望月 美帆子(もちづき みほこ)氏。ギャレットのこれまでとこれからについて話を伺った。

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ギャレット家のキッチンで生まれたギャレット ポップコーン

ギャレット ポップコーン ショップスは1949年にアメリカのシカゴにて創業。誕生の経緯を望月氏に聞いた。

「ギャレット ポップコーンは1934年にギャレットファミリーのキッチンで生まれました。実は私自身この仕事をするまで知らなかったことなのですが、アメリカではお祭りやご近所さんとの集まりの場にポップコーンを持ち寄りみんなで食べるという習慣があったそうです。味付けはそれぞれ好きにオリジナルで作って振舞うというスタイル。
いつものようにギャレットファミリーがポップコーンを作ろうとキッチンに集まっていた日のこと。『誰が一番美味しいポップコーンを作れるか競争しよう!』という流れになり、家族の一人がものすごく深みのあるカリカリの食感の美味しいキャラメルポップコーンを作ったのだそうです」

「その日がきっかけでのちにギャレット ポップコーンが誕生することに繋がったと聞いています。ギャレット ポップコーンというお店の名前も、ギャレットファミリーのキッチンで生まれたことが理由です」

ポップコーンの概念を変えたい

望月氏はもともと、ポテトチップスで有名な日本の製菓会社「カルビーグループ」の子会社「ジャパンフリトレー」に在籍していた。

ギャレットが日本へ進出したのは2013年2月。今はギャレットジャパンとして独立しているが、進出当初はジャパンフリトレーとライセンス契約を締結するといった形でスタートしたのだそう。

「フリトレーの社長が仕事でよくシカゴに行っていらっしゃって。そこでギャレットのポップコーンに出会って大ファンに。フリトレーはポップコーンをメインで売っている会社でもあったので、社長の『ぜひギャレットを日本進出させたい』の一言から全てが始まりました」

日本へ進出したい想いをギャレットもずっと抱いていたそう。実際に、日本の会社からオファーを受けたことも過去にはあったようだが、さまざまなことなどが重なり、フリトレーとともにギャレットは日本でのスタートを切ることとなった。

ポップコーンといえば、お祭りやパーティー、映画館で食べるといったイメージがあるかもしれないが、実のところ日本とポップコーンの歴史は長く、第二次世界大戦以降の1950年ごろまで遡るとも言われている。

「日本人にとってポップコーンは日常的なお菓子ではないのかもしれません。しかし、甘くてほろ苦いキャラメル味を食べた年配のお客さまから『懐かしい』と言っていただくことも実は多いのです」

「私はいつ食べるか、どう食べるのかがはっきりとわかるものは必ず成功するという一つの確信のようなものを持っています。ポップコーンは、楽しい空間でわいわい食べるものという一つのシーンがきちんとイメージできたので、きっと日本でも受け入れていただけると自信がありました。しかし、私たちが本当に目指していたのはもっと先。ポップコーンを”スナック“ではなく”スイーツ“として確立させたいという想いがありました」

確かにポップコーンはスーパーでも手軽に買えるカジュアルなお菓子といった印象がある。しかしギャレットは日本参入を決意した際、ポップコーンを今までのカジュアルな立ち位置ではなく、ギフトや引き出物として選んでもらえるような特別なものにしたいと考えていた。

「ポップコーンの概念をずっと変えたいなと思っていました。今日はあの人のお家にお邪魔するからポップコーンを手土産にしよう、という形で、まるでケーキを選ぶような感覚でギャレットのポップコーンを贈る人の顔を想像しながら選んで欲しい。
ギャレットでは贈答用として、お中元やお歳暮もしています。以前ならば全く想像できなかったかもしれませんが、結婚式の引き出物に選んでいただくことも。一つのスイーツブランドとして捉えていただけるような存在になれてきていると実感しています」

ブームになった宿命を抱えながらも前進する

ギャレットが日本へ進出した2013年、はからずしてポップコーンブームが日本で巻き起こる。ギャレットもこの流れとともに一躍多くのメディアに取り上げらることとなったが、流行というのはその名の通り流れ行くもの。ブームが一度落ち着いた2017年後半ごろ、これからのギャレットについて改めて考えながらみえてきたのは「守りに入ってしまうのではなく、もっと前へ、挑戦する姿勢を貫きたい」という想いだった。

そこで望月氏は自身を筆頭に、事業に携わっていた社員とともにギャレットジャパンとして独立を決意。とことん自分たちの目指す場所へと突き進んで行こうと気持ちあたらに再スタートを切ることとなる。

「一気にメディアに取り上げられてしまったことで、ギャレットが長年築き上げてきた70年の歴史やレシピ、手作りにこだわっていることなど、そういう一番大切なところをきちんと伝えられなかったことが悔しかった。当時の日本人のお客さまにとってはアメリカから突然出てきたポップコーンのお店という認識に過ぎなかったのだと思います」

「実際にギャレットのことを詳しく知った方から『そんなに長い歴史があったのね、知らなかった』と言われたことも。改めてブランドのイメージをきちんと発信していくという意味では、独立は良い流れを作るために必要だったのかなと思います」

伝統を守りながら、新しい挑戦もし続ける

ギャレット ポップコーンの人気商品「シカゴ ミックス」は、創業当時からある「キャラメルクリスプ」と「チーズ コーン」2つの味をミックスさせたもの。キャラメルのほろ苦い甘さとチーズの塩味が合わさることで互いの風味がより際立ち、なんとも癖になってしまう。この他、塩のみで味付けしたごくシンプルな「マイルド ソルト」や、ローストしたアーモンドとキャラメルの融合「アーモンド キャラメルクリスプ」なども揃う。

そして日本の店舗では、季節限定で抹茶やいちご味なども登場。限定フレーバーを心待ちにするファンも多くいるそう。

実のところ日本へ進出した当初は「定番のみで勝負するつもりでいた」と望月氏は話す。しかし、国内のみならず世界中からスイーツブランドが進出する”スイーツ大国”の日本、定番だけでは埋もれてしまう可能性があった。そこで目を向けたのが、日本に昔から根付く独自の食文化でだった。世界中どこを探しても春夏秋冬、移りゆく季節を楽しむ文化は日本ならでは。そこで望月氏は、日本のニーズに合わせた商品展開をしてみてはどうかと思いつく。

結果的にこれが大ヒット。いちご味のポップコーンしかりどの商品にも添加物は使わず、素材だけで色や風味を出すというこだわりも。一方でギャレットの定番商品に関しては、創業当時から約70年以上経った今も一切レシピを変えないという強いこだわりがある。

「創業当時のレシピを愚直に守り続けているところはギャレットのすごく良いところだと思っています。配合や作り方など、全てそのまま変えずに今年で71年目に入りました。本拠地のシカゴでは創業以来ずっと愛され続けているとうことも決して当たり前のことではないなとも感じています」

時代の変化とともに人の味覚も変わって行くのは当然のこと。お菓子屋さんの中にはそういった時代の流れを汲み取りながら少しずつ味を変えているところも少なくはないが、望月氏は「定番商品のレシピは絶対に変えない」と言い切る。

「伝統の味を残したいという想いが強いことはもちろんなのですが、ギャレットの商品は全て手作りなため製法を少し変えるだけでも味や食感まで変わってしまうからです。例えば、出来たてのポップコーンにキャラメルをコーティングする作業一つとっても、人の手だからこそごくわずかな温度の変化を把握でき、完成のタイミングを肌感で見極めることができます。効率化を優先するならば断然機械の方が良いのかもしれませんが、美味しさを追求したいので手作業へのこだわりだけは譲れませんね」

ギャレットのポップコーンは機械に頼らず、工程の全てに人の手が加わっている。そのためきちんとトレーニングを受け認められた人だけが製造に携わることができるのだ。レシピと少しでも違うともなれば商品として絶対に店頭に並べない。それも全てはギャレットの伝統をこれまでもこれからも大切に紡いでいきたいという想いの表れから。

「今まで大切に守られてきたレシピには、これまでのギャレットの歴史の全てがぎゅっと詰まっています。私たちはその長い歴史を尊重していますし、我々の自信にも繋がっています」

一人の人生をも突き動かしたギャレットの魅力とは?

大手会社から独立し、これからは自分が先頭に立ちギャレットジャパンの舵を切って行く。望月氏をここまで突き動かすギャレットの魅力とは、果たして何なのだろうか。

望月氏はこれまで、いくつものブランドマーケティングを経験し、ギャレットはその中でも特別だという。

効率化が重要視されるこの時代に、一つひとつ人の手で愚直にものづくりしている姿勢や、ポップコーンという一つの文化を変えて行きたいという強い想い。そして、伝統を大切にしながら新しいことへチャレンジする精神も忘れない真っ直ぐさ。

ギャレットは、ただ商品だけを宣伝する上っ面なやり方はせずに、ブランドの生誕から、どのようにして70年もの間歴史を育んできたのか、どんな想いやこだわりを持って作り続けるのか。そんなギャレットの真髄となる部分までお客さまへ届けたいと考えている。

心の通うブランドの在り方に感銘を受けた望月氏。

「私自身、まだギャレットを知らない方たちにもギャレットの魅力的をもっともっと伝えて行きたいと想っています。絶対に食べたら気に入ってもらえると信じているので」

贈る人の顔を想い浮かべながら選ぶお菓子に

最後に、お客さまへ届けたいメッセージと、これからのギャレットについて望月氏にお伺いした。

「大切なギフトとして選んでいただけるようになる。これこそギャレットがスイーツとしてみなさんの中にきちんと根付いたという一つの証になるのではと思っています。ただ流行っているから買うのではなく、贈る人への気持ちや顔を想い浮かべながらギャレットの商品を選んでいただける。そんな風になって行きたいですね」

「これからについては、1人でも多くの方に食べていただきたいので、お店を増やしたいですね。今はインターネットでなんでも手に入ってしまいますが、やはりお客さまときちんと触れ合える場所があるというのは大切なことだと思います。美味しい記憶とともにみなさんの心に残る、そんな存在であり続けたいですね」

店舗情報
店名:ギャレットポップコーンショップス

住所:東京都渋谷区神宮前1丁目13−18

営業時間:10:00~21:00

定休日:年中無休

kanmi
3時のおやつはかかせない、甘党フリーライター。好物はクラブハリエのバームクーヘン。毎日がほんのりとあたたかくなるような文書をお届けします。