和栗という文化を次世代へ

今回ご紹介するモンブランスタイルは、東京都渋谷区代々木公園のほど近くにある、モンブランの専門店。イートインのみのこちらは、中に入ると、まるでお寿司屋さんをイメージさせるカウンタースタイルになっている。

メニューは、モンブランと栗を使ったパフェのみ。8席しかない店内は常に満席。開店前に配られる整理券もすぐさま完売するほどの人気店。

お話を伺ったのは、モンブランスタイルのオーナー兼栗・モンブラン職人の竿代 信也(さおしろ しんや)氏。今回は、竿代氏が栗にこだわる理由や、お店の誕生ストーリー、そしてこらからの未来について紹介する。

竿代氏と栗の出会い

竿代氏は過去に、航空系グルメカタログのプロデュースを15年ほどされていた。
クリエイティブディレクターから、栗・モンブラン職人への転身。この全く違うように感じる2つの職種には、ある1つの共通点がある。それは、どちらもクリエイティブであることに違いはない、ということ。むしろ竿代氏は、「食こそ、クリエイティブの原点である」とも語る。

「ディレクターの頃から、食への関心は強かった。ある仕事で『日本を代表するお菓子を作りたい』という依頼を受け、日本中から良い素材を探しました。その時、偶然にもとても美味しい栗に出会うことができたのです。」

この栗と出会うまで竿代氏自身、栗が好物であったわけでなく、特別な関心すらもなかったという。しかし、この出会いにより、どんどん栗に魅了されて行く。

クリエイター時代より「本質をつかむまで、ものごとを徹底的に因数分解する」性格であった。その琴線に強く触れたのが、この栗である。そして後、栗のお菓子であるモンブランの専門店を開くまで、竿代氏の心を動かしたのである。

栗もモンブランも鮮度が命

モンブランスタイルの店内は、まるでお寿司屋さんを思い浮かべるようなカウンタースタイルだ。モンブランを注文すると、竿代氏自身が、目の前で丁寧にひとつひとつを1から作り上げてくれる。この様子は、訪れる客を楽しませ、ちょっとした話題にもなっている。しかし、このスタイルは、ただのパフォーマンスではなく、栗の本質を極限まで実感してもらえるようにと考え抜いた結果、生まれたものだった。

「どんな食べ物にも、1番美味しく食べることのできるタイミングが必ずあります。栗もモンブランも、鮮度が命。空気に触れると、どんどん香りが飛んで行ってしまいます。特にモンブランは生クリームを使っているので、絞ったその瞬間から乾燥していき、鮮度も落ちていきやすいのです。」

「注文してから作るお店は、他にもあります。その多くは、土台のメレンゲが駄目になってしまうことを理由にあげています。モンブランスタイルでは、メレンゲよりも栗そのものの鮮度を意識しています。そして、私が目の前で作る理由は、もうひとつあります。それは、お客様と私との間に、ひとつとして嘘を介入させないためです。主役は、あくまでモンブラン。私が行う全ての工程は、主役を最大限に引き立てるためだけにあるのです。」

竿代氏の作るモンブランは、時間と共に失われる美味しい瞬間をひとつとして逃さず味わえる、いわば、最高に贅沢な時間すらも与えてくれる。

モンブランが苦手な人にも食べて欲しい

普通のモンブランは、ひとつ食べきると少し重たさを感じてしまう。栗よりも生クリームの後味が残りやすい印象もある。しかし竿代氏は「乳製品は、栗を引き立てる重要な存在。しかし、使い方次第では、逆に栗の存在を台無しにしてしまう可能性がある」と話す。

「栗はとても繊細なので、合う素材を見つけることはとても難しい。乳製品はその中でも、唯一と言って良いほど栗と相性の良い素材です。栗と生クリームを合わせれば、パサパサと重たい栗特有の食感がふわっと軽く滑らかになり、手が止まらないほどの美味しさに変化します。」

モンブランに乳製品を使うこと一つとっても、そこには”理由”がある。たった1つの素材と向き合い、その素材本来の旨味を引き出すことは、決して容易ではない。

「栗は鮮度が命。しかし、たとえ採れたてであっても、それだけでは美味しいとは感じません。なぜなら、栗はでんぷん質でできているからです。でんぷん質は糖ですが、人間の舌には甘く感じません。人間の舌は、体にいいものを美味しく感じ、危険なものを苦く感じたり、酸っぱく感じたりします。これは持論ですが、でんぷんは人間にとって消化しにくく、そのため、でんぷん質でできている栗をそのまま食べたとしても、美味しく感じないのだと思います。」

栗をそのまま食べるよりも、素材と真剣に向き合い、その素材に精通する人が手を加えれば、栗が本来持つ美味しさ以上の美味しさを引き出すことができる。

「目指しているのは、本当の栗好きに喜んでもられるモンブランを作ること。そして、栗やモンブランが苦手な人にも食べてもらえる、本当に美味しいモンブランを作ることです。」

産地を守り、栗の本当の良さを1人でも多くの人に伝えたい

「私たちが存在する理由の1つには、栗の本当の良さを1人でも多くの人に知ってもらいたいことです。もう1つは、栗の産地である茨城を守り、ちゃんと次世代に残していくことをしなければならないこと。栗の本当のおいしさを伝える店がたくさん増えてくれば、別に私たちの存在意義はないかと思います。
一方で、本当の美味しさを伝えられる店が、なかなか増えない理由ははっきりしています。私たちがもう8年、これだけ和栗専門店としてやっていても、1つの素材と向き合うことは、すごく難しい。採算度外視で、儲け度外視で、本気で栗と向き合ってやるぐらいの気持ちでやらないと、本当の美味しさを伝えることはできないと考えています。」

竿代氏とモンブランスタイルのこれから

「栗の生産者が高齢化しつつある今、専門店としては、原料が手に入らなければお店を続けることはできません。」

竿代氏が信頼する栗の生産者さんは、60代や70代とご高齢の方がほとんど。10年後、栗が手に入らなくなる可能性も考えられる。そこで竿代氏は、自ら栗を生産できるようにと自社農園を作った。しかも、栽培から収穫まで、自ら現場へ足を運んでいる。お店のオーナーであり、栗・モンブラン職人でもある多忙な日々の中、栗を栽培する時間やその体力を捻出するのは簡単ではない。過去には栗の収穫の為、お店を2週間休んだこともあるそうだ。

「お店を長期休むことは、商売する上でかなり厳しい決断でした。しかし、だからこそ『自然の恵で出来ているものを提供しています』という想いが、リアルにお客様へ伝わると思うのです。」

一言に栗といっても、その品種は和栗だけで200種類を超える。一般的な栗農園は、多種多様なニーズに添うよう、いくつもの種類の栗を栽培しているが、竿代氏はモンブランに最適な栗のみを自社農園で栽培している。

「モンブランを通して、一人でも多くの方々に栗本来の美味しさを知っていただくこと、それが和栗という文化を未来に残す一助となる事を願っています。」

美味しい栗と出会い新しい未来を築いた竿代氏が教えてくれたのは、自らが作るモンブランの話だけでなく、徹底的に素材そのものの本質に迫ることの大切さ。それは人生を豊かにするヒントでもある。そんな竿代氏が作るモンブランを、ぜひ一度、食べてみてはいかがだろうか。

[box title=”お店情報” box_color=”#c30d23″]店名:Mont Blanc STYLE

住所:東京都渋谷区富ヶ谷1-3-3

定休日:水曜日
(畑作業のため以下の期間に臨時休業有り)

※毎年9月初旬頃/収穫作業、3月/苗植え、6・7月・8月/草刈り
(一ヶ月前にはHPにて告知します)
和栗や公式HP/waguriya.com

営業時間:12:00〜
整理券または当日準備数が無くなり次第終了
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