チョコレートを通じて人生をより豊かに|チョコレートセレクトショップ カカオストア

代々木公園のほど近く。おしゃれな輸入雑貨屋かと思いきや、店内にはカラフルな板チョコが勢揃いしている。
ここは、チョコレートの専門店「テオブロマ」を手掛ける日本人ショコラティエのパイオニア土屋公二氏が、2015年にオープンしたBean to Bar専門店「CACAO STORE(カカオストア)」である。カカオストアオリジナルのBean to Barはもちろん、海外ブランドのBean to Barもセレクトされている。

店内には、カフェスペースも完備。こちらでは、食事やデザート、ドリンクのほかに、アルコールもあり。お酒とチョコのペアリングが楽しめる、”大人の隠れ家”にもぴったりの場所だ。

Sweets Villageは、一年ほど前にも土屋氏にインタビューさせて頂いている。その時は、土屋氏とチョコレートとの出会いについてや、チョコレートへの深い愛を語って頂いた。今回は、ここ「CACAO STORE(カカオストア)」について様々な角度からインタビュー。どのような経緯で誕生したのかや、お店のこだわり、そしてこれからの展望などについても伺ってみた。

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“板チョコのセレクトショップ”を作りたかった

カカオストア誕生は、2015年9月15日。テオブロマとして、すでに都内に3店舗を構えているが、他の店舗とカカオストアにはどのような違いがあるのだろう。また、お店が誕生することとなった経緯についても聞いてみた。

「1999年3月、チョコレートを中心に扱うお店「ミュゼ・ドゥ・ショコラ テオブロマ(本店)」をオープンしました。今でこそチョコレートの専門店はたくさんありますが、当時はまだ少なくて、チョコレートだけでやっていくのは、とても難しい時代でした。そこで考えたのが、カフェを併設し、チョコレートを使ったスイーツやドリンクを提供できるようなお店はどうか?と。」

「現在、チョコレートは一般化して様々な形で世の中に普及しました。時代の流れの中で、板チョコをメインテーマとしたセレクトショップ『カカオストア』を設立することになりました。カカオストアは、長年思い描いた構想が形になったものと言えます。店内にカフェを設け、自社製品のほかに他社のチョコレートも豊富にラインナップする。今までより、もっと広い視野と感覚でチョコレートを楽しめる、そんなお店になっていると思います。」

ドリンクメニューには、コーヒーや紅茶のほかに、カカオやチョコレートをベースとしたドリンクもあり、チョコレート専門店ならではのこだわりと個性を感じる。

カカオストアの店内に入るとまず目に飛び込むのは、豊富な板チョコのラインナップ。「こんな数の板チョコ、見たことない!」そう驚くと同時に、眺めているだけで、なんだか幸せな気持ちになってくるから不思議だ。

「カカオストアは『板チョコのセレクトショップ』のようにしたいとも考えていました。『カカオストアへ来たら、100種類以上もの板チョコがあるよ!』というように、まるで宝探しをするかのように、わくわくする空間にしたかったのです。」

目移りするほどの数の板チョコのラインナップに圧倒されつつ、可愛いパッケージにも心踊る。独特な線のタッチと配色は海外の絵本のようだ。

「板チョコってね、とても奥深いんです」

カカオストアが主に掲げるコンセプトは、3つある。

①「Bean to Bar」
②「豊富な数の板チョコのセレクト」
③「チョコとお酒を楽しめる大人な空間」

これらコンセプトの深い部分について、さらに土屋氏に聞いてみた。

「テオブロマを作った時から、『チョコレートをもっと身近な存在にしたい』と考えていました。今もなお、その気持ちは健在です。そこで思いついたのが、板チョコ。手軽に買えて、持ち運びもしやすくて、パクッと口に入れることのできる板チョコなら、たくさんの方の毎日・日常に溶け込みやすいのではないか、と考えたのです。そして誕生したのが、『板チョコのセレクトショップ』カカオストアです。」

「板チョコってね、とても奥深いんです。国が違えば味も変わるし、カカオのパーセンテージによっても苦味が違います。中には少し”ひねり”を効かせた板チョコもなどもあって面白い。ちょっと珍しい食材を使ったものや、砂糖を一切加えずに作られたものもあります。今まで食べたことのないチョコレートに、ぜひ出会って欲しい。カカオストアが、そのきっかけになると嬉しいですね。」

「自分が経験した中で感じた感動や発見を、たくさんの人と共有したいのです。というのも、この業界にいると、本当に色んな方たちとの出会いがあります。私は元々、大手メーカーさんが作るチョコレートしか知りませんでした。けれど、こうしてチョコレートの専門店をしていると、否が応でも、チョコレートの魅力に触れることとなります。チョコレートの個性に触れること、それは、心の想像力を豊かに育ててくれるのです。」

自分好みのチョコレートと出会う方法

ひとくちにチョコレートと言っても、驚くほどの種類があることを知った。それらを目の前にすると、「一体、どれを選べば良いのだろう?」と、迷ってしまうことだろう。そんなチョコレートビギナーさんにもおすすめな、『自分好みのチョコレートと出会うハウツー』を、土屋氏にレクチャーして頂いた。

◉チョコレートビギナーがチョコレートオタクになるまでのポイント

1.小さいサイズのチョコレートの食べ比べで違いを楽しむ
2.ミルク、ブラックの違いを楽しむ
3.カカオのパーセンテージで違いを楽しむ
4.国の違いを楽しむ

「まずは、いくつものチョコレートを食べ比べしてみることが第一です。いきなり大きな一枚のチョコレートでを食べるのではなく、小さく個包装のものをバリエーション豊かに手に取り、試してみること。そうすることで、自分の好みがなんとなくわかるはずです。次に、ミルクチョコとブラックチョコの違いをよく味わってみる。甘いものが好きな人はミルクを選びがちですが、あえてブラックをチョイスするなど、普段は選ばない方を手に取る、というのも、面白い発見に繋がります。」

「次に、カカオのパーセンテージの違いによる変化、これを実感してみることです。パーセントによって大きく変わるのは、苦味。好みには本当に個人差が現れますが、大体の方は65~70%くらいのものが好きとおっしゃいますね。一方で、意外と100%が好きな人も結構いるんですよ。100%のチョコレート自体が巷にはまだ少なく、店頭で見つけると『お、食べてみたい』と、思わず興味が沸くのだと思います。とは言っても理由はそれだけではなく、甘いものが苦手な方や、『お酒によく合うから』と、好んで選ぶ方も多くいらっしゃいます。」

「パーセンテージの違いがわかったら、次は国の違いを楽しむ。今までガーナしか知らなかった方が、例えばベトナムやペルーのチョコレートを食べて違いを楽しむ、とかね。『私はカカオ70%が好みだから、70%のもので3つの国のものを食べ比べしてみよう』なんていう風に、理屈っぽくならず、難しくも考えず、自分なりに楽しんで欲しいですね。」

パッと目を引くパッケージデザインはどこから生まれるのか

「CDの”ジャケ買い”ではないけれど、『パッケージが可愛いからこれにしよう』なんていう選び方、これも良いですね。」

とにかく自由に、チョコレートを自分らしく楽しんで欲しい。そんな土屋氏の想いをそのまま形にしたような、目を楽しませられる、それこそ”パケ買い”したくなるような可愛いパッケージのチョコレートが、カカオストアにはいくつも並んでいる。

「これね、まだ昨日届いたばかりなんですけど、ドミニカ共和国のカカオ豆で作った新作チョコです」と、サイイグアナのイラストが描かれた新作チョコを、一足お先に見せてくれた。

写真は新作チョコのパッケージに使う原画。画家の樋上公実子さんが描いたサイイグアナは、かなり繊細に細かく描写されている。

「このドミニカ共和国の新作チョコは、製品化するまでに半年かかりました。まず、ドミニカ共和国のカカオ豆を使おう、というところから始まります。現地へ出向き、次にパッケージデザインをどうするか考える。その国特有の動物をパッケージに描くのは、動物って愛らしいじゃないですか、可愛いしね。それに、その国の人も喜んでくれます。」

「ただね、困ったことに……ひとつの国に、そこにしかいない動物が3種類もいたりするんですよ。どれを選ぶのかはもう、こちらのチョイスに委ねて頂くことになるわけですが(笑)……。例えばドミニカ共和国なら、フラミンゴ、ワニ、イグアナと3種類いて、その中から選ぶわけです。フラミンゴってイラストにした時、とっても可愛いじゃないですか。パッケージにするにも向いているかな、と直感的に感じはするのですが、ちょっと変わったイラストの方が面白いかな?なんて思って、今回はイグアナを採用しました。王道よりも、ちょっと個性的な方が魅力を感じることあるでしょ。」

デザインを考える時、常に頭に想い浮かぶのはお客様の顔だと土屋氏は話す。どんなものを作ったらお客様がニッコリ笑って、手に取った時にワクワクと楽しくなるのかを想像しながら、いつもパッケージデザインを考えているのだという。可愛いパッケージが生まれる秘密は、土屋氏が常にお客様目線でいること、そして、ドストライクなものからほんのちょっぴり外れたユニークな視点を持ち合わせているからこそである。

「良いものだけを、丁寧に作り続けたい」

「本店を始めてから20年が経ち、世の中の動き的に、人々のチョコレートへの関心度が年々高まっていると感じます。特に2010年以降伸びているのが、Bean to Barのお店です。」

Bean to Bar(ビーントゥーバー)とは、カカオ豆の仕入れから焙煎・粉砕、板チョコを作るまで、全ての工程を自社で行うスタイルのこと。土屋氏は、Bean to Barが流行るずっと前から、カカオの原産地まで足を運び、収穫はもちろん、現地で働く人たちの教育や指導も行なってきた。今までは、Bean to Barを敢えてコンセプトとしてこなかったが、カカオストアを開店するにあたり、Bean to Bar中心の商品展開にすると決めたという。

私自身、新しいお店を作るにあたり、『Bean to Barの分野に参加したい。長年、チョコレートの専門家として生きてきた中で培ったカカオ豆の知識を生かし、よりお客様にチョコレートの魅力を伝えたい』そんな想いを抱くようにもなりました。このお店はまさに、そんな気持ちを反映しています。」

「ここ数年のうちに、どうして世界中でBean to Barのお店が増えたのか。考えられる理由はいくつかあります。まずひとつ挙げるとするならば、チョコレートを作るために必要だった何十億円とする大きな機械、今まではこれが無ければカカオ豆からチョコレートを作ることは不可能でした。しかし、時代の流れの中、ある研究者が、インドのスパイスを磨り潰すために使っている石臼のような機械を、カカオ豆を磨り潰すために使えないだろうか?と発案したのです。価格も、今までのものに比べてかなり安価で手に入るとあり、大企業でなくとも購入できる。これが、Bean to Barが急に増えた要因だろうと考えます。」

「機械が手に入っても、肝心のカカオ豆が手に入らなければチョコレートは作れません。インターネットが主流の昨今、有力な情報を簡単に知ることができるようになりました。カカオ豆もインターネットで手軽に購入できます。チョコレートを一から作ることは、時代の流れとともに、それほど難しいものではなくなった、ということです。」

とは言え、品質の良いチョコレートだけが世の中に出回っている、とは限らない。ものを一から作るという行為は、長年の経験、現地で見聞きしたものを肌で実感することからでなければ得られないもの。そして何より、作り手の想いが強く反映するとも思うのだ。

「私の根底には『良いものを丁寧に作りたい』という想いがあります。チョコレートを40年もやってきた中で、やはり豆から作ってみたいという想いを、ずっと温めて、ずっと大切に育ててきました。」

「時代が早く進んだとしても、私は焦りはしません。チョコレートは、私の投影です。生き様を表す存在、人生そのものとも言えます。チョコレートを商売として捉える以前に、『きちんと魂が通っているものでなくては、世に出す意味がない』と考えているのです。Bean to Barをコンセプトにするならば、現地に出向き、カカオ豆を実際に見て、働く人と言葉を交わし、そこから良いと感じるものを製品化したいのです。」

土屋氏の、ショコラティエとしてのプライドを感じた。

ワークショップを通じてチョコレートの魅力を伝える活動

カカオストアでは、「チョコレートの魅力をもっと知って欲しい」との想いから、土屋氏自らワークショップを開催している。カカオ豆からチョコレートが完成するまでの工程を見たり、実際に各国のチョコレートの食べ比べができる参加型ワークショップだ。ここでのワークショップでは、「本当は隠しておきたい」そんな、土屋氏の本音が入り混じるほどの、現地に行ったからこそ知れた話や、他では聞けないようなマニアックなことなど、大変充実した内容となっている。噂を聞きつけて、一般の参加者以外にも、「土屋さんの話を聞きたい!」と、プロの方も参加されている。

チョコレート好きがもっと増えて、ここは集える場所に

最後に、カカオストアの今後についてはどのようにお考えなのかを伺った。

「カカオストアブランドのチョコレートの種類は、年々増えています。最初は4種類から始まり、今では10種類近くまで増えました。けれど実際には、同じ産地であっても、パーセンテージの違いや、ミルクやブラックもありますので、ひとつの産地に5、6種類もあることになり、正確には50種近くのラインナップが揃っています。さらに、他社のチョコレートもお店ではセレクトして販売いるので、かなりの数になりますね。中には、一度売れたらそれきりのレア商品もあります。その移り変わりも楽しんで欲しいと言いますか、来店するたびに新しい出会いがあることを、楽しんで欲しいですね。」


「近いうちに、”チョコレートバー”をやりたいなと考えています。夜、お酒を飲みながらチョコをつまみに、チョコレート好きが集まり話をするみたいな空間を作りたいです。。引き続き、ワークショップやセミナーも積極的に開催して、皆さまと直接お会いしながらチョコレートの魅力を伝えて行きたいですね。」

足を運ばなくても、あらゆる情報が手に入る時代。だからこそ、人と人とのコミュニケーションや触れ合うことの価値が上がっている、とも感じる。目を見て交わす言葉の中で得るものは、ネットだけでは叶わない。

土屋氏からは、チョコレートの魅力だけではなく、楽しい人生の歩き方も教えてもらえる。そんな土屋氏の想いを凝縮したお店「カカオストア」へ、ぜひ一度、足を運んでみてはいかがだろう。

店舗情報
店名:CACAO STORE(カカオストア)

住所:東京都渋谷区富ケ谷1丁目6−8

営業時間:
月曜~木曜・日曜・祝日 11:00~20:00(L.O.19:00)
金曜・土曜・祝前日   11:00~21:00(L.O.20:00)

web site:https://www.theobroma.co.jp/shopbrand/cacaostore/

kanmi
3時のおやつはかかせない、甘党フリーライター。好物はクラブハリエのバームクーヘン。毎日がほんのりとあたたかくなるような文書をお届けします。