野菜は面白い!麻布で出会ったちょっとユニークなお菓子

東京の麻布十番に、野菜を使ったユニークなお菓子が並ぶお店”麻布野菜菓子”がある。
トマトやごぼうを練りこんだ羊羹、しょうが・ほうれん草を使ったフィナンシェ、ナスのコンポートなど、見かけない野菜のお菓子がずらりと並ぶ。

今回お話を伺うのは、麻布野菜菓子のオーナー花崎 年秀 氏。本職がグラフィックデザイナーであり、商品のパッケージや店内のポップ、ポスターまで自らデザインされている。
そんな花崎氏に聞いてみたのは、「どうして野菜のお菓子だったのか?」ということ。今回は、麻布野菜菓子のブランドストーリーを紹介する。

デザイナー目線の自由な発想

野菜というと、どちらかと言えば、おかずやサラダなど副菜のイメージが強い。そんな野菜にフォーカスを当て、まさかのスイーツとして展開してしまうのは、デザイナー視点を持つ花崎氏ならではの豊かな発想力から生まれるものだろう。

「お菓子の専門的な知識や教育を受けていないからこそ、型にとらわれない豊かな発想が生まれる、とも感じます。実際私以外にも、クリエイターが食品ブランドを立ち上げるケースはたくさんあるんです。そういった方の共通点は、切り口がとても面白くて自由なんです。」

どうして”野菜”だったのか?

ユニークな発想は、出会う人までもを豊かにする力がある。お菓子といえばフルーツなどを使うことが多いが、野菜を選んだのはなぜなのだろうか?野菜をお菓子にするにはハードルが高いようにも思う。専門的な知識がなく、商品化するには苦労もたくさんあったのではないか。

「野菜のお菓子を作ろうと思ったきっかけは、グラフィックデザイナーの仕事で懐石料理店の立ち上げに参加した時のこと。それまでは特別野菜に興味を持っていなかったのですが、その懐石料理店のオーナーさんがとても面白い方でした。面白いと感じた理由は野菜寿司。酢飯の上に、魚じゃなくて野菜が乗っているんです。その見せ方がとても斬新だしユニークで、初めて『野菜ってメインとして全然ありなんだ!』と気づきました。」

実は最初、懐石料理店への企画提案として、野菜を使った和スイーツを思いついたのだとか。リーマンショックの影響で残念なことに形にはならず、「だったら自分でやってしまおう!」と自ら企画・販売を計画。なんと自宅事務所のガレージを改装し、そこに店舗を建ててしまったのだとか。想像力だけでなく行動力まで併せ持つ、なんともバイタリティに溢れた人柄はとても魅力的だった。

「最初に初めた場所が西麻布だったこともあり、店名は麻布野菜菓子にしました。ちょっとべたな名前なんですけどね。」

そう話す姿は全く気取りがなく、等身大の花崎氏らしさが溢れている。

枠にとらわれないお菓子作りを

パッケージが和を意識したデザインになっているは、デパートの催事に出店する際和菓子部門として呼ばれることが多いから。しかし花崎氏はこうも続ける。

「和のイメージをふんだんに盛り込んではいますが、ジャンルにとらわれない、新しいスタイルのお菓子を展開し続けたいと思っています。」

とにかく自由に、型にはまらない発想からくるおしゃれなビジュアルたち。

「お菓子の基本は『美味しい』ものであって欲しい。そこに、意外な食材を組み合わせたり、ビジュアルにもこだわったり、普通の人だとちょっと想像のつかないものを提案する。すると、食べた人が嬉しい驚きを感じてくれるんです。それがこのお店のコンセプトでもあります。」

麻布野菜菓子のお菓子の作り方は、プロのパティシエや料理人からするとセオリーから外れる手法を取り入れている。しかし、素人ながらの挑戦だからこそ”新しい味の発見”と出会えるのだろう。
「もともと食べ歩きが好きで、あちこちのお店に行っては、「もう少しこういう味のほうがいいんじゃないか」「こういう組み合わせのほうが美味しくなるのでは」なんて勝手なことを思っていました。麻布野菜菓子のお菓子作りの根本にある考え方は同じです。」

また、花崎氏の作る野菜菓子は今までの野菜菓子とは全く異なる。
これまでの野菜菓子は素朴なものばかりで、美味しいものは少なかった。

野菜をスイーツにするとしても「美味しいもの」を作りたい。その想いが花崎氏の飽くなき挑戦に繋がっているのである。

特別すぎない、ちょっと特別な野菜菓子

枠にとらわれない商品を展開する麻布野菜菓子だが、決して奇をてらったものを商品化しているわけではない。「実は野菜でできています」という、ちょっと普通じゃない、だけど美味しいという絶妙なラインを意識している。これは花崎氏ならではのセンスがあってこそ成り立つものだ。

「最初のガレージで始めたお店は、住宅街の本当に隠れ家みたいな場所にあったんです。たまたま散歩して通りがかった人が「あ、お菓子屋なんだ」と入ってくれ、「野菜使ってるんだ」と興味本位で手にとってくれる。そして、食べて「何これ、美味しい!」と喜んでくれるのです。野菜を使ったらこんな風になるんだというサプライズ感はもちろん、たまたま入ったお店で美味しいお菓子に巡り合えた感覚は、ちょっと得した気分というか、探して見つけた時より嬉しい気持ちになりますよね。」

散歩途中に素敵な花を見つけたようなお店であり続けたい。お店を始めた時から今になっても、花崎氏のこの想いは変わらないのだという。

創意工夫で野菜の味はスイーツやデザートに

「野菜は色んな姿に変身して私たちを楽しませてくれる、とても魅力的な食材です。」

「例えば、うちで展開しているアボカドのモンブラン。食べるとまるでバナナのような感覚というか、むしろ、バナナを使うよりもコクのある美味しいお菓子に仕上がります。他にはナスを赤ワインでコンポートした商品もあります。こちらはまるでりんごのような食感がするため、食べた方はナスだと気づきません。」

花崎氏にかかれば、癖の強いセロリまでがまるでパイナップルを食べているかのようなスイーツに変身してしまう。

「セロリやナスのコンポートが入った野菜のゼリー(夏限定)もあるのですが、お客様はきまって「野菜のゼリーって甘いのですか?」と聞かれます。一応、スイーツのゼリーなので甘いのはもちろんですが、野菜が入っていることで味が想像しづらいのだと思います。食べた方はみな驚かれたり、「セロリはダメだけど、これは食べられる!」そう言って下さる方もいます。」

もしかすると野菜嫌いのお子様にこそ、麻布野菜菓子のスイーツはぴったりかもしれない。

夏になると野菜を使ったかき氷も登場する。中にはイチジクを使ったメニューまで。

「以前は野菜メインで展開していましたが、今は野菜だけにとらわれず、少しユニークな食材を中心に選んでいます。」

発想は宇宙のように、組み合わせ次第で無限の可能性

最後に、今後のお店の展開や、お客様へ届けたいメッセージを伺った。

「今ある定番のお菓子や季節限定菓子の他にも、野菜を使った新しい商品をどんどん出して行きたいです。」

「あと、もう1つ。今は少ないカフェスペースを広げて、たくさんの人が楽しんでくれる場所を作りたいですね。実はここのカフェメニュー、とても面白いんですよ。」

花崎さんのユニークで自由な発想は、まるで宇宙のように無限大。これからの麻布野菜菓子がますます楽しみだ。

お店情報
店名:麻布野菜菓子

住所:東京都港区麻布十番3-1-5

定休日:火曜日(第二・第四)

営業時間:11:00~19:30

野菜の味わいを存分に活かした野菜菓子

老舗のお菓子屋が多い麻布十番。そんな麻布十番で贈り物に人気が出ているお菓子屋”麻布野菜菓子”。麻布野菜菓子では、野菜そのものがもつ美味しさや個性を生かしたお菓子を取り扱う珍しいお菓子屋である。


見た目も美しい野菜菓子はそれぞれ個性があり美味しい。今回は、麻布野菜菓子の野菜菓子のこだわりを紹介する。

餡からこだわり抜いたどら焼き

どら焼きは簡単そうに見えるが、本格的などら焼きは生地も餡も生産が非常に難しい。そんな、どら焼きを野菜で作るには一手間も二手間も必要になってくる。

「どら焼きは、餡が苦手とかあまり好きじゃないと言う人もいます。野菜餡どら焼きは、見た目もカラフルで美味しく、麻布野菜菓子でも人気商品です。」そう語るのは麻布野菜菓子のオーナー 花崎 氏。


「どら焼きは麻布野菜菓子の一番最初の商品。当時から3種類の味を提供しています。どら焼きの餡は白餡がベースになるのですが、白あんが多すぎると甘ったるくなります。」

「野菜菓子と言うことで、とにかく餡は半分以上野菜を入れたい、そう思い協力会社さんに依頼しました。野菜が多いと白あんが少なく、焦げついてしまうのです。普通のお菓子屋だと引き受けたりしませんが、依頼した先はとても協力的で、野菜ペーストを半分以上入れてどら焼きの餡を作ってくれました。」

野菜餡の美味しさ

「半分以上野菜ペーストが入った餡のどら焼きを提供しているのはうちだけ。そのおかげで、普通のどら焼きよりも野菜の美味しさも加わってとても美味しくなりました。例えば、かぼちゃは半分以上入っているので、かぼちゃペーストと感じる人もいます。あと、生クリームやシナモンも隠し味に加えて、ちょっと洋風にして若い人にも食べやすくしています。」


「紫芋は、スイーツの定番ですが、実は紫芋をそのまま使うと美味しくありません。なぜ使うかというと色が綺麗だからなんですよね。」

「麻布野菜菓子では、半分以上野菜ペーストなので紫芋だけでは美味しくならないのです。そこで、さつまいもも一緒に入れて、おいもの美味しさを出し、紫芋の綺麗な色も出せる工夫をしています。」

多くのどら焼きは餡だけではなく生地も甘いところが多い。しかし、麻布野菜菓子のどら焼きは生地も餡も甘さ控えめであり、野菜の風味を最大限引き出していて美味しい。どら焼きの世界観を変えているといっても過言ではないだろう。

美味しい餡にこだわった野菜最中

よくある野菜菓子では、白餡をベースに野菜パウダーを混ぜるものが多いと言う。しかし、麻布野菜菓子で提供する菓子では試行錯誤の上完成した特別な餡で作っている。

「野菜パウダーの餡は、なんとなく味や香りがするだけのものが多いです。しかし、それだけでは味気ない。どうやったら野菜そのものの素材感を出せるか、を考えるようになりました。」

麻布野菜菓子の野菜最中では、薩摩芋、蓮根、黒胡麻と木の芽がある。それぞれの最中の味は全く違っていて面白い。

「白餡の味がメインとすると、野菜そのものの味や風味が感じられなくなります。とにかく、そこが納得できなかったんです。そこで生クリームやバターなど白餡に乳製品をちょっと隠し味で入れ、甘さの中に”コク”が出るようにしました。そうすると途端に味に深みというか、旨味というか単純ではないコクが出て美味しくなります。」

「白餡に生クリームを入れており、味や風味は独特になっています。賛否が別れ、”すごい美味しい”と言われる方もいれば、”えー?”みたいな意見も。あまりにも、和菓子では想像できないような餡になっているので、普通の和菓子を想像すると全く違う味になっています。」

黒胡麻と木の芽と言う変わり種の最中

黒胡麻と木の芽と言う最中。木の芽は山椒の香りがとてもするお菓子になっており、普通山椒はお菓子に使われてないことから変わり種ともいえる。

「山椒はスパイス。シナモンはパンプキンパイとかに入れる隠し味。それと全く同じ扱いで、ゴマには山椒をいれています。これが結構相性がいいんですよね。」

最中の飾りはこだわりのアクセント

「最中の上には、それぞれ蓮根や山椒がのっています。これはただの飾りではなく、野菜を焼いて最中の皮に添えています。すごく野菜の香ばしさが出て、全体の美味しさを引き締めてくれるのです。」

麻布野菜菓子の野菜最中は、餡と最中の皮が別々にされて販売されている。それは、最中の外側のサクサク感と餡のしっとり感を楽しんでもらいたいという想いからきている。
野菜餡は、野菜の風味や香りがふんだんに感じられる。人によっては嫌いな餡に感じることもあるかもしれないが、最中に挟んでぜひ食べていただきたい。餡だけで食べるのと、最中と挟んで食べるのでは全く違う味になり、新しい体験をすることになるだろう。

野菜の風味がふんだんに感じられるフィナンシェ

「和菓子の浮島という蒸し菓子を、パウンドケーキみたいにしたのが野菜フィナンシェ。フィナンシェに和菓子の作り方をアレンジして作った和風のフィナンシェになります。」

「野菜フィナンシェは全て着色料を使わず、野菜の素材の色で作っています。野菜そのものの素材を使っているので結構カラフルで綺麗なんですよね。」

「麻布野菜菓子では、どら焼きや最中などの餡ベースのお菓子がメインなのですが、餡ペーストをフィナンシェの生地に入れるのは難しい。野菜のパウダーを野菜の風味がしっかり感じれるぐらい十分な量を生地に練りこんで作っています。実は生地に一定以上パウダーをいれてしまうと、膨らみ加減が変わり、焼き時間や焼き加減が難しくなります。また、これほどパウダーをいれてしまうと普通のお菓子屋さんの常識では考えられないほどコストが上がってしまいます。」

「『まあ、ちょっと野菜の風味がするね』ぐらいの中途半端なお菓子だとやっている意味がないと思いました。とにかく野菜の味が全面に出て、すごく美味しいフィナンシェを作るために、何回も試行錯誤して開発しました。」

想像もつかない麻布野菜菓子の野菜フィナンシェの味

麻布野菜菓子のフィナンシェは、しょうが、紫芋、トマト、ほうれん草、かぼちゃ、ごぼうの味が提供されている。種類を聞いていると、どんな味なのか想像もつかない。

「トマトの味は酸味、そしてトマトにはコクがあります。上にのっている砂糖漬けのドライトマトは実は隠し味として重要なポイントとなっています。トマトフィナンシェはドライトマトをのっけなければ結構固いのですが、ドライトマトをのっけて焼くと、とても柔らかく、甘みも出てきます。すごく個性的な味なのですがとても美味しい。」

「ゴボウフィナンシェは、ゴボウだけだと本当に土臭くなってしまいます。そこで、ココアを混ぜて土臭さを消しています。見た目は、ココア風味なんですが、ココアとかチョコレート焼き菓子とは違っていて、ゴボウのコクが効いているお菓子となっています。説明は難しいのですが、あえていうとコクのあるチョコレートと言う風味です。」

「ほうれん草のパウダーは、舐めると実は抹茶っぽい味がします。抹茶ほど苦くはないのですが、ほうれん草の欠点は、色。綺麗な緑色にはならないのです。そこは、抹茶の優れているところなんですよね。」

「なので、ほうれん草フィナンシェの中には、抹茶もいれています。でも、分量としては、抹茶に対してほうれん草が倍も入っていますが、味は抹茶味に仕上がっています。」

野菜フィナンシェと聞いて、ただ野菜パウダーが入っているだけと思う人も多いのではないだろうか。野菜はもともとお菓子に入れるものではないのでお菓子の調理方法では野菜そのものの風味を引き出すことは難しい。野菜フィナンシェを作るためには、一つ一つ野菜の風味を引き出すための工夫が必要になってくる。一手間も二手間もかかる野菜フィナンシェはギフトとしても利用しやすいのではないだろうか。

麻布野菜菓子の店舗紹介

いかがだっただろう。麻布野菜菓子の野菜餡どら焼きをぜひ食べに麻布十番まで足を運んでみてはいかがだろうか。

お店情報
店名:麻布野菜菓子

住所:東京都港区麻布十番3-1-5

定休日:火曜日(第二・第四)

営業時間:11:00~19:30