お菓子がつなぐ “人と人” 。新しい時代のパティスリー

自由が丘駅から徒歩4分のところにある「LIFE IS P TISSIER(ライフ イズ パティシエ)」。2020年1月18日にオープンしたチョコレートと焼き菓子を販売するお店だ。

洗練されたクールな外壁からは、一見お菓子屋さんとは想像しづらい。しかし中に入ると、チョコレートや焼き菓子の甘い香りが漂い、ライトに照らされるスイーツの数々は、まるでジュエリーのように繊細で美しい。

「だれもやっていないお菓子屋さんにしたい」そう話すのは、ライフ イズ パティシエのオーナー兼パティシエ太田 悠一(おおた ゆういち)氏。そんな太田氏の思惑通り、お菓子屋という枠をこえたまったく新しい個性的な空間になっている。今回はそんな太田氏に、ここライフ イズ パティシエの誕生ストーリーやお店やお菓子作りへのこだわりについて伺う。

昔から物事を考えて発信するのが好きだった

太田氏は国内のレストランや洋菓子店などでショコラティエ、パティシエを10年ほど経験したのち、「ライフ イズ パティシエ」を東京・自由が丘にオープンした。また、パリで開催される世界最大級のチョコの祭典、「サロン デュ ショコラ」で発表されるC.C.C(クラブ・デ・クロークル・ド・ショコラ。フランスのチョコレート愛好家によるクラブ)では金賞を2度も受賞している。

確かな経歴を持つ太田氏たが、パティシエになったのは「たまたまなんです」といとも飄々と笑いながら話す。

「昔からなにかを考えて発信するのが好きだし得意でもあったんです。気付いたらデセールやショコラなど、担当のカテゴリーが増えている状況になっていました」自らの意思というよりは、流れに身を任せるように生きてきた。今後、個人的にやってみたいことを聞くと、「お客さまから『家に来てお菓子を作って欲しい』と言われています。それに、魚とか野菜とか自分が食べたことのないものを取り寄せてさばくところから調理するのも好きなので、“出張料理”なんていうのもやりたいですね」と、お菓子だけにとどまらない幅広い活動を思案。

“お菓子屋らしくないお菓子屋”をつくりたい

ライフ イズ パティシエのオープンは2020年1月半ば。世の中は新型コロナウィルスによってかつてない状況に不安感を抱いていた時期で、飲食業界への影響も大きかった。そんな厳しい状況によって、お店の方向性をがらりと変更することを余儀なくされる。

※こちらの画像は新型コロナウイルス以前に撮影されたものです。

ポップアップストアや期間限定ショップでの出店を経験するうち、商品のこだわりを説明することはもちろんだが、対面でコミュニケーションを取ることの大切さを実感。それをきっかけに「“人と話す”をメインにしたい」と、実店舗をはじめようと思ったのだそう。しかし、コロナによって外出自粛要請が発出されてお店を一時閉めることになり、街からは人の姿が消える異常事態が続いた。そんな矢先、いろいろな人と話しをするうちにオンラインへ転換するしかないと思い、当初は予定のなかったオンライン販売を特化させることに。

「オンラインの準備はもともと知り合いに詳しい方がいて、すぐにお願いしました。シンプルで見やすく、かつデザイン性もあって、何を買えるのかが一目でわかるようなホームページにしたいと考えて、敢えて“お菓子屋さんらしくない路線”で攻めることにしました」

そもそも、「お菓子屋さんをやろうと思っていない」と太田氏は話す。なぜなら、物事を考えるときに“お菓子屋である”というところからスタートすると、その枠にとどまって新しい発想が浮かんでこない。「どこにもないようなお菓子屋さんをやりたいんです」

オンラインショップをはじめるときにも全てを他人まかせにはせず、自ら勉強をしてSNSでの発信にも力を入れた。「今はオンラインと店舗で需要が50:50と半々。オンラインで買ってくださった方からメッセージをいただくこともあって、その声を聞きながらお菓子を作ったりしています」

お菓子づくりの源は“人”

お店の名前である「ライフ イズ パティシエ」には、“ストレスなく働きたい”という太田氏の想いが込められている。

「組織にいるとどうしても縛りが多かったので、もっと自由な発想でお菓子を作って販売したいと考えていました。パティシエも、一般的にはオーナーとシェフ・パティシエがいてその下にスー・シェフ、と階級制度がありますがそれももう古いと思っていて。そこで、たまたま知り合った人が手伝ってくれることになって、共同事業者というかパートナーのような心強い存在ですね」

また、お菓子を開発する際には、パティシエだけでなく、建築士やデザイナーなど異業種の方にも意見を聞くようにしているそうだ。

「パティシエだけの意見だと偏ってしまうので、外部からの意見は大事だと思っています。それに、デザイナーさんであればパッケージについても相談できるので、さまざまな業種の方の意見を取り入れることが結果的に一番効率が良いと思いますね」

業種をこえてコミュニケーションすることにより新しい人脈が増え、互いに知識を与え合うことによって相乗効果も生まれる。そしてそれは、日々のお菓子作りに欠かせない“発想の源”にもつながる。

コミュニティースペースのような空間でありたい

今年1月に1周年を迎えたライフ イズ パティシエとしての今後の展開は、「どんどんアップデートして、良い方向に流れていく」。

“人と話す”をテーマにしたお店には、さまざまな環境に身を置く人たちが日々訪れる。敢えてコックコートを着ないのも太田氏のこだわり。「気軽に話しかけてもらえるのが一番だと思っているので。みんながみんな対等な立場で話ができる方が面白い」そんな太田氏のもとには、まるで友だち感覚で訪れる人たちが多いという。

カジュアルな会話の中にはお菓子作りのヒントがたくさんあるそうで、いろいろな人の意見を取り入れながら日々、商品のアップデートを欠かさない。「どんどん改良していかないとつまらない」お客さまが食べやすく、ギフトにしても喜んでもらえるよう今後も積極的にアップデートしていく。

「パティシエじゃない人になろうと思っているので(笑)。パティシエは世の中にいっぱいいるので、自分が同じことをする必要はないのかなって。それよりもお菓子を通じて、誰もやっていないような面白いことを発信するのが、多くの人に喜んでもらえると思うから」

店舗情報

店名:ライフ イズ パティシエ (LIFE IS P TISSIER)

住所:東京都世田谷区奥沢6-33-14 第一大塚ビル 1F

営業時間:金・土・日11:00~19:00

定休日:月~木曜日