誰かと過ごす「美味しい時間」は、ワガシアソビのお菓子とともに

和菓子屋をイメージして訪れたらきっと通り過ぎてしまうことだろう。それほど、その町の風景にすんなりと馴染み静かに呼吸しているのがワガシアソビのアトリエだ。オーナーの稲葉 基大氏がお店ではなくアトリエと表現するように、中へ入ると空間のほとんどが工房。そこから生み出されるお菓子は芸術品のように美しく、どこか儚げでありながらも作り手の想いがぎゅっと惜しみなく込められ、日常にさりげない幸せを添えてくれる。
そんなワガシアソビのお菓子の秘密をオーナーの稲葉氏に話を聞きながら、細部に至るまで見つめ、魅力の根源を探ってみた。

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“パンに合う和菓子”を探して見つけた『ドライフルーツの羊羹』

「とある知人から『パンに合う和菓子を作って欲しい』と依頼されて生まれたお菓子」そう稲葉氏が話すのは『ドライフルーツの羊羹』。その名の通り、羊羹の中にドライフルーツがごろごろと入った見た目も味も斬新な和菓子だ。羊羹は、きめ細やかな北海道産小豆を100%使用するため舌触りがとても滑らか。そこに無花果のつぶつぶ感やいちごの甘み、胡桃の存在がアクセントとなりとてもユニークな食感を楽しめる。甘さは控えめ。ラム酒がふんわりと香り、大人なムードを醸す一品は、ワインはもちろんウィスキーやブランデーとのペアリングも良さそうだ。

「ミュージシャンでありながらフォトグラファーとしても活動している佐藤奈々子さんから『今度写真展をやるから、パンに合う和菓子を作って』と依頼があって生まれたのがドライフルーツの羊羹です。佐藤さんはアーティストである傍らオーガニック食材を用いて『ななこパン』というのを作っていて、パンを被写体にした写真展をするから会場ではパンを出したい、けれどそれだけだとつまらないからパンに合うディップのようなものを作って欲しいと我々に依頼が来て。味噌や蜂蜜、餡子などさまざまな素材を羅列して行く中で、ドライフルーツと羊羹を使ってパテのようなお菓子を作ったら面白いのでは?と浅野の提案により生まれました」

会場では佐藤さんの焼いたパンの上に、なかなか手に入らない岡山の吉田牧場の幻のチーズを塗り、その上に羊羹を乗せて来場者に提供。するとこれがとても好評だったのだそう。ぜひまた作って欲しいとの依頼が舞い込んだものの、当時はまだ和菓子屋に勤めている時期だったため叶わず、独立を機にお店の定番商品にした。

「パンに合う素材として何を選んだら良いのだろうと考えた時、無花果や胡桃の入ったパンはすでに多くありますし、いちごもジャムで定番ですよね。羊羹に使われている餡子もあんパンでありますし、『ドライフルーツの羊羹』に使っている素材は、実はどれもパンと相性が良いものばかりなのです」

「ただし、それらをただ一緒にしたら美味しくなるかと言ったらそうではなく、ドライフルーツはそのまま入れてしまうと食感が硬く、羊羹とのバランスが悪かった。そこで硬さを調整するために洋酒を使うことになり、いくつかある種類の中からラム酒をセレクトしました。ラム酒はフルーツととても相性が良くて合わせた時に味が喧嘩しませんし、羊羹のスタンスを崩すことなく、さらにフルーツと調和もばっちりとれる最高の組み合わせなのです」

『ドライフルーツの羊羹』は、1cm幅に切っていただくのがおすすめとのこと。切った断面はそのままアンティークの額縁に入れて飾りたくなるほど愛らしくて美しい絵画のよう。

販売は1棹単位のみ。小分けにして販売して欲しいとの声もあるようだが、「お菓子は、誰かと楽しむ時間づくりのツールであって欲しい」との想いからこの形に拘わり続けている。

「一人で食べるというよりも、誰かとコミュニケーションする中にお菓子があって欲しいと思っているので、多いならば誰かと分けて美味しい時間を共有して欲しい。例えば、一人暮らしのおばあちゃんが娘を呼ぶために『美味しい羊羹があるから来なさいよ』というように。家族や友達、ご近所さん同士で『買ってきたから集まって食べない?』とか、そんな風にしてコミュニケーションが生まれていけば良いなと想います」

日持ちは2週間と長め。実店舗はもちろん電話やホームページからの購入も可能なため気になる方はぜひチェックを。

お守りのような小さな干菓子『ハーブのらくがん』

米粉などに水飴や砂糖を混ぜて型に押して抜き乾燥させて作るらくがんは、日本に古くからある干菓子として主に茶席や供物として目にする。とはいえ近年ではカラフルで愛らしいらくがんに出会うこともたびたびある。そうは言っても『ハーブのらくがん』は珍しい。「ハーブ」と「らくがん」、なかなか思いつきそうにはない組み合わせだが、果たしてどこから着想を得たのだろう。作り手の稲葉氏に聞いた。

「ニューヨークで勤務していたころ、グリルチキンを食べたらローズマリーの枝が乗っていて、すごく良い香りだなって。その時の香りの記憶がずっと自分の中に残っていて、何かお菓子に使えないかなと探っていたところ、らくがんに合わせたらすごくフィットしました」

「ニューヨークは日本と違って材料のほとんどを輸入に頼っていたので、道具から素材まで、全て日本の本社に頼んで送ってもらっていました。そのため、欠品や破損が起こると代用品を探さなくてはならなくなり、突然そのような事態に陥っても困らないためにと、カフェやスーパーの掃除道具売り場でさえ、何か使えそうなものがないかと、常日頃からアンテナを張りながら生活していました。そういったアクションを習慣化させていると、自然と自分の中に気になるものや使えそなものを敏感に察知する能力が長けも来るわけです。ローズマリーに出会ったのもそのおかげかもしれませんね。これは後々お菓子作りに使えるぞ、と、自分の中の勘のようなものが働いたのでしょう」

味はローズマリー、ハイビスカス、カモミール、抹茶、柚子、いちご、薔薇の定番7種他、夏限定で南高梅が登場する。香料や着色料は一切使用せず、素材のみで色や風味付けされているところも魅力の一つで、老若男女問わず皆で安心して楽しむことができる。ローズマリーやカモミールなどのハーブはふんわり優しい香りが口から鼻へと抜け、心地良い清涼感を味わえる。惜しみなく素材を贅沢に使っているのも特徴。特にいちごは、まるでいちごそのものを食べているかのようにしっかりと風味を感じることができる。

『ハーブのらくがん』は一口サイズゆえちょっとした隙間時間にもパクッと食べやすい。またローズマリーは集中力を高める作用やリラックス効果、アレルギーの原因となるヒスタミンを抑える作用もあるため、お守りのように持ち歩きたいお菓子でもある。寝る前には安眠効果のあるカモミールも良いし、その時、その日の気分で食べ比べしてみるのも良い。日持ちは30日と長く、可愛い見た目はギフトにも最適。4粒入りなので誰かと分け合い楽しんでみては。

店舗情報
店名:wagashi asobi (ワガシアソビ)

住所:東京都大田区上池台1-16-2

営業時間:営業時間 10:00~17:00

定休日:不定休

kanmi
3時のおやつはかかせない、甘党フリーライター。好物はクラブハリエのバームクーヘン。毎日がほんのりとあたたかくなるような文書をお届けします。