千駄木駅・団子坂出口から徒歩5分程度の場所にある「薫風(くんぷう)」。エントランスは杉玉とお客様の贈り物の木製の看板が飾られている。
店内に入ると8人ほどが座れる机を中心に、和菓子屋やお酒、お茶が壁に沿って置かれている。
その中心には”健康”を考えて和菓子を作り続ける、笑顔の可愛い店長のつくだ氏がいる。
そんな薫風では「和菓子と日本酒のマリアージュ」という珍しい組み合わせをコンセプトとしている。
これは、元製薬メーカーで研究に従事していたつくだ氏だからできた発想だ。
今回は、そんな薫風の創業のヒストリーや、つくだ氏が和菓子に掛ける思いなどをご紹介。
”本当の健康を考える”がもたらした転身
今回ご紹介する「薫風」の店長のつくだ氏は、元々は製薬メーカーで創薬に携わっていた。当初は病気を化学的な反応で小さくする研究、最後は病気と共存していくための研究に関わっていた。
例えば、お腹が痛い、頭が痛いと感じた時、薬を飲むと痛みが治まるので、この研究自体は私たちの生活には欠かせない。
しかしつくだ氏は、そもそもお腹が痛くならないためにはどうしたら良いか、慢性的な頭痛はどうしたらなくすことができるのか、という予防の方を考えるようになった。
確かに、そもそも腹痛や頭痛にならなければ薬を飲む必要はないのだから、健康を考えたときに、”予防”を考えるのはもっともなことだ。
そこでつくだ氏が目を付けたのが”食”だったのだ。
「豊かな食べ物だったり、そういう食べるものが手に入る空間にいると、心が落ち着きますし、そういう楽しい場所で、みんなと笑いながら、良いものを食べると、精神的にも良くなって、心や体の健康を保つということにもなってきます。」とつくだ氏は話す。
そこからつくだ氏のキャリアは大きく変わった。
はじめは製薬メーカーに勤めながら夜間、学校に通う生活が始まった。そこで調理師の免許を取り、退職後、フレンチ・イタリアン・デリ・割烹など、 様々なジャンルで腕を磨いた。
”食”へのこだわり
薫風で提供される和菓子の原材料は、実際につくだ氏が目で見て確認した物が中心だ。
原材料にこだわる理由について、つくだ氏はこう語った。
「例えばわらび餅。実際のところは、それが中国産なのか熊本県産なのか、それの割合が、甘藷・タピオカでんぷんが何%入ってて、本わらび粉は何%なのかとか、詳しいところは一般的には分からない。」
「だけど、私の場合は国産で、自分が根っこから掘ってきたわらびの本物の粉でご提供させて頂いているんです。そうすると、本物を食べたことがある人っていうのと、本物を食べたことがない人が出てくるわけですよね。本物を知っているのか、知らないのかすごく大切です。」
「本物を知っている人は、本物が育つ自然環境がなければいけない、そしてその自然環境を整えてくれていたり、むやみに開発のためにその土地を売らないでいてくれる人がいる、という事を知っている。
だからそういう人・場所を大切にしなきゃいけない、っていうふうになってくると、自然とこの金額で買わなきゃいけない、その場所にも行ってみたいっていう気にもなります。」
つくだ氏は食はもちろん、その生産者・生産地のことも非常に考えている。
つくだ氏の”食”へのこだわりは、”アグリツーリズム”にも繋がっているのだ。
つくだ氏は和菓子の説明と同時に、その生産者の話を沢山してくれる。特に年間通して変わる「どら焼き」のフレーバーには沢山のストーリーがある。
ぜひ実際に薫風のどら焼きを手に取り、生産者の方とのストーリーについて話を聞いてほしい。
人との繋がりから創業へ
さまざまなジャンルを経験したつくだ氏は、飲食業の知り合いも多く、知識も豊富だ。商品開発のコンサルタントしても活躍していた時期もある。
創業のきっかけとなったのも、コンサルタントとしての仕事からだった。
ある日、つくだ氏はファーマーズマーケットで知り合いの手伝いをしていた。そのブースの隣には、レモンの農家さんが出店をしていた。
この農家さんが、現在の薫風の看板商品でもある「どら焼き 岩城島のレモンコンフィ入り」のレモンの生産者であり、つくだ氏が創業をするきっかけとなった農家さんだ。
この農家さんは、愛媛県からレモンを運び、都内のシェフ向けに宣伝に来ていた。しかし、レモンは冬が旬で、夏はカタログでしか宣伝ができない。そのため、うまく宣伝ができないことにこの農家さんは課題を感じていた。
そんなときに知り合ったのが、商品開発のコンサルタントをしていたつくだ氏だった。そして、開発をしたのが、現在の「どら焼き 岩城島のレモンコンフィ入り」のベースとなるものだった。
そして、最初の出店場所となったのが、千駄木駅と薫風の間にあるおにぎりで有名な「利さく」だった。
当時、利さくは喫茶店で、近くにある病院にお見舞いに行く人が、お見舞い用のケーキを購入する場所としても使われていた。その後、後継の際にお店のコンセプトを変え、手作りにこだわるおにぎり屋さんに転身した。そして、お見舞い用のお菓子もケーキではなく、和の物にしたいという話が、つくだ氏がレモン農家さんと知り合った時と同じタイミングで出てきたのだ。
そこから、創業まではあっという間だった。
どらやきはお客様からの感想を元に、日々完成度を高めていく。そして評判が広がり、他のお店やネット販売も開始。当時、コンサルタントとしても活躍していたつくだ氏だったが、仕事の幅を和菓子作りに絞り、2012年に薫風を創業したのだ。
“四季”を表現できる和菓子
つくだ氏はこれまで、フレンチ・イタリアン・デリ・割烹など、様々なジャンルに携わってきた。そんな中でなぜ、和菓子に特化したのかを伺った。
「私自体がものを立体的に作り上げたり、絵を描いたりするの好きだったので、四季を通して造形をしてみたいと思いました。
和食は、旬の食材を使うことができるので、四季を追うことができます。でも、お肉も扱えます、魚も扱えます、何々も扱えますってなると、それぞれがその分野で1つのカテゴリーを形成することができるほど、すごく深い分野です。
だから、あまり食材が広がらない、でも、植物性の素材を使って、ある程度の縛りがある世界で出来ることを表現しようと思ったら、和菓子に行きつきました。
当店のお菓子の基本となる大納言小豆の餡も一年中炊いていますが、新豆と夏を越した豆とでは炊き方や配合を変えています。素材の香りを楽しんで欲しいので、素材を最大限活かすため、手間と工夫を惜しみません。」
”四季”を表現したい。この想いは薫風の商品からも伝わってくる。
看板商品であるどら焼きは、「どら焼き 岩城島のレモンコンフィ入り」は通年提供されているが、そのほかに常時4種類の季節のフレーバーが楽しめる。
和菓子と日本酒のマリアージュ
薫風の特徴は、お店のコンセプトでもある、「和菓子と日本酒のマリアージュ」からもわかる通り、和菓子と日本酒を一緒に楽しめることだ。
数ある飲み物の中で、なぜ日本酒だったのかを伺った。
「日本酒は秋に収穫したお米を、冬に仕込みをし、春に新酒として出てくる。農耕民族の日本人が五穀豊穣の感謝を込めて作った飲み物。
季節を大切にする和菓子との食文化が合っていること、季節で変わる味わいや温度が表現できるのが日本酒だったのです。
春に出てくる日本酒は、うすにごりでまだ少し若いので、後口に苦味がある。春の山菜も苦味があります。
夏は水ようかんや葛切りなどのど越しの良いお菓子に加水火入れしてアルコール度数が低いすっきりと飲みやすい日本酒。
秋は栗とか芋にあわせて加水火入れして夏を越えたひやおろし。
冬の寒い時期になってくるとおぜんざいやお餅など甘さが濃厚で温かいお菓子に、火入れした原酒をお燗にして。
日本酒は”食”と一緒に四季を表現できるんです。」
店内には沢山の日本酒が置いてある。どれもつくだ氏が和菓子とのマリアージュを考えて選び抜かれた日本酒だ。ぜひ、つくだ氏おすすめの日本酒と和菓子を楽しんで欲しい。
もちろん、お酒以外にも四季を感じることのできる飲み物もある。
中国茶だ。
中国茶は、体を冷ます効果のある緑茶、一方で体を芯から温める黒茶、利尿作用を促す菊などの花茶など、体調や季節に合わせて選ぶことができる。
和菓子と〇〇の会
薫風のコンセプトは「和菓子と日本酒のマリアージュ」だが、もちろんビールやシャンパーニュ、ワインと合わせ頂いても楽しめる。
薫風ではこれまでにお酒を提供しているお店や企業とコラボレーションをし、「和菓子とクラフトビールの会」、「和菓子とシャンパーニュの会」、「和菓子とシェリーの会」などを開催している。
一見、ミスマッチにも思える和菓子とお酒のマリアージュだが、様々な種類のお酒と一緒に提供をし、評判を呼んでいる。
実際に取材をさせて頂きた、「酒粕 焼きかりんとう」。これはビールとの相性抜群だ。サイズ感も一口サイズで、かりんとうなのに甘くなく、塩分と黒胡椒がほど良く効いている。一つ食べると、二つ目、三つ目と手が止まらなくなる。お酒のおつまみとして最適だ。
このコラボレーション以外にも、薫風では毎月「マリアージュの会」を開催している。つくだ氏の和菓子とその和菓子に合うお酒を楽しめる会だ。また、食器も和の物にこだわり、雰囲気も楽しめるひと時となっている。
いかがだっただろうか。つくだ氏の人柄と、和食とお酒を通して四季が味わえる薫風。ぜひ一度足を運んでみて頂きたい。
[box title=”お店情報” box_color=”#003a13″]店名:薫風(くんぷう)
住所:東京都文京区千駄木2-24-5 1F
定休日:月、火(土日不定休)
営業時間: 13時30分~20時00分
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[gmap address=”東京都文京区千駄木2-24-5″]